メビウスの輪

Dr.フェラあり
はじめに
 
 ドモ。当HPの末席を汚させていただいておりますDr.フェラありです。「メーコック」「20年史」「外道を生きる」に続きましてまたまた連載をさせて貰うこととなりました。今度のやつはとりあえずノンフィクションの恋愛小説です。とは言ってもNeguroさんのようなカッコいいものではなく、妻子持ちの中年男が家庭を壊すことなく、娘ほども年の違うタイ風俗嬢と曲がりなりにも恋愛気分を楽しむためにはコレしかないんじゃないか、というそこら中を探せば掃いて捨てるほどあるようなありきたりな話です。でも逆に、だからこそ読者の方の中にも僕と同じ体験をした方、または続行中の方が数多くいらっしゃるのではないでしょうか?そんな方々に少しでも参考になれば、と思いこの物語を書き始めます。
 またこれはこの外道の細道でもおなじみの「投稿体験記」の長期版のようなものでもありますので、外道初心者のための「外道遊びのヒント」も散りばめていきたいと思います。さらにここに登場するオーン(仮名)は去年まではこのHPに載っていましたし投稿も数件ありましたのでディープな読者の方には本人が特定出来るかもしれません。しかし彼女は既に風俗から足を洗い、田舎に帰ってしまったので迷惑はかからないと思います。
 それでは皆さん、どうぞお楽しみ下さい。舞台はナタリー、時は2001年の夏から始まります。

登場人物紹介

モーウェン・・・本編主人公。しがない開業医だが外道歴は20年を誇る。タイにハマる前はフィリピンにハマっていた。外道の細道に「Dr.フェラあり」のハンドルネームで「外道を生きる」を執筆している。無類の女好き。
   
オーン・・・ナタリーの泡姫。チェンライ出身で現在25歳。美容院→古式マッサージ→風呂屋、という典型的パターンで風俗デビューを果たす。妹はやはり風俗で知り合った中国系アメリカ人と結婚した。現在は父母と弟の4人家族。

ヒアン・・・タイ華僑。以前はジャパゆきシンジケートのボスであったティックというタイ華僑のスタッフ、しかしティックが失踪したため現在無職。姉の経営するおみやげ屋を手伝いながら、訪泰したモーウェンやその仲間の面倒を見て小遣い稼ぎをしている。無類の女好き。

ヤバー三等兵・・・元ヤクザ。しかし自分の性格がヤクザに向いていないことに気づいたのは既に全身に刺青をいれた後で、中途半端な人生を送ることとなる。現在60歳。モーウェンの外道の師匠。無類の女好き。

外道紘・・・アフリカ放浪後バンコクに定住した謎の日本人。「外道の細道」主催者。無類の女好き

目次

外道の細道






第1章   2001年7月   YOU CAN'T ALWAYS GET WHAT YOU WANT.

 我輩は外道である。名はモーウェン、つまり「眼鏡先生」。タイ人の妻とは10年前に結婚した。今回もいつものように家族連れで訪泰したのだが、妻子をチェンライに残しTG133にて単身、バンコクにやって来たのであった。我輩はいつもこのように日本での仕事にかこつけて、妻には「せっかく高い金を払ってタイまで来たのだから実家でゆっくりしてきなさい。僕は仕事があるから先に帰る。」とやさしい夫を装って、帰りは一人でバンコクに一泊するようにしている。TG640に搭乗するにはチェンライからでは連絡便がないので前日にバンコクに出てこなければならない。チェンライからの乗り継ぎならば深夜便のTG642という手もあるのだがこれはデイリーではない。だから仕事の都合をわざとこの深夜便の飛ばない日に合わせてバンコクの一泊にこだわっている。こんな面倒くさいことをするのも全て「外道」のためである。

 前回、三月に来た時も一泊でミラージュ、ナタリー、タニヤの「愛」、スティサン通りソイ6の置屋と4人の女を買った。46歳の中年男にすれば敢闘賞ものの頑張りだと思う。同年代の友人に「一晩で4人とやった。」と言っても「見栄張りやがって、この野郎、出来るわけないだろ。」と相手にもしてくれないが、外道を知らない奴はかわいそうだ。我輩は彼等より2倍も3倍も楽しい人生を送っている。女が代われば何回でも射てるのじゃ。御同輩よ、頑張ろう。

 午後2時30分にドンムアン空港に降り立った我輩の心は以前とは比べものにならない程、燃え上がっていた。その理由は今回はバンコクで2泊できるからだ。今まで何故気がつかなかったのだろう?妻子をチェンライに置いて来るのだから帰国が1日ずれたってバレるわけないじゃないか。念のため日本を出る時に家の電話の受話器をはずしてきた。こうしておけば万が一、帰国にあわせて妻が国際電話をかけても何とか言い訳が出来る。我輩はやっぱり天才だな。とにかく明後日の帰国便に乗るまで45時間もある、今までのように女を食い散らかすのではなく、じっくりとしゃぶりつくそう。

 空港ではいつものようにヒアンが待っていてくれた。もう10年のつきあいになるが、毎度のことながらこいつがいてくれると非常に助かる。なにしろヒアンの頭にはバンコク中の風俗店の場所がインプットされていてしかもマイカーがあるのでタクシー代もかからない。効率良く遊ぶことが出来る。ホテルを取るにしてもタイ人が交渉すれば最低料金で泊まれるし、しかもジョイナーフィー破りの名人でもある。こうして浮いた金は彼にお礼としてやることにしている。お互いに持ちつ持たれつの関係なのだ。「オチンチン元気か?」いつもの挨拶を交わし我輩は彼のサニーに乗り込んだ。

 「モーウェン、ところで今日のホテルは何処にする?」ハイウェイに入ってからヒアンが尋ねてきた。彼のアパートはシーザーの裏手にあるので我輩は利便性を考えていつもラチャダーピーセックに泊まることにしている。「2泊だから安いパラッゾにするか?いや待てよ、風呂屋でいい子が見つかっちゃたら部屋へ連れ込んでもバスタブのないパラッゾじゃつまらないな。やっぱりエメラルドがいいか?でもあそこは9時以降に女を連れ込むと800BのJF取られるし、置屋の女だったらパラッゾで充分だよな。」等と考えながらもナタリーの雛壇に我輩好みの女の子が並んでいる光景が一瞬脳裏をよぎり、「エメラン ディークワ」と答えた。「エメラルド」ではタイ人に通じない。

 無事1,500Bでエメラルドにチェックインし部屋に落ち着くとヒアンはポットでミネラルウォーターを沸かし、我輩がチェックインしている間に隣の7−11で買ってきた氷を用意している。「モーウェン、ウーロン茶のパックは?」こいつは本当に気が効く奴だ。こうして我輩はウーロン杯、ヒアンは冷蔵庫から出したビールをすすりながらこれからの計画を話し合った。「この前は1日で4人やったから今回は2日で8人やるの?タルン」「何言ってんだよ!日本人に向かってスケベなんて言うな。これが普通の日本人なの。でも今回は時間がたっぷりあるからじっくりいきたいな。いくら僕でも8人は無理だよ。」「そういえばこの前マイから電話があって、モーウェンは今度いつ来るんだって聞かれたんだけど。」「ああ、ソイ6のマイか。まあ可愛いんだけどそろそろ飽きてきたかな。5回買ってこの前やっとフェラさせたんだけど全然ヘタクソなんだよ。相変わらず一緒に風呂入りたがらないし。それに今日買っちゃったら部屋に居着いちゃって明日は絶対に置屋に帰らないだろうから、まあ明日いい女がみつからなかった時の保険ってとこかな。」マイとはここ数年なじみにしている置屋の女で最近では他の女と遊び尽くした後、深夜に翌日の帰りがけの一発用に買っていた女だ。スティサンの置屋は夜12時を過ぎればカンクン1,500Bで連れ出せる。

 午後4時、2人でまずミラージュを覗いた。ここもタイ人には「ミラー」と言わないと通じない。ここも前は良かったけど最近はパっとしないな。次に道順で行くとナタリーなのだがエマニュエルを覗く。ここはいつ来ても女の数が少ない。売れていて少ないのかそれとも客が来ないので女も定着しないのか?いずれにせよレストランと雛壇が離れているという店のつくりが致命的である。姉妹店であるハイクラスも覗いてみたがここも相変わらずエマニュエルの使い古し、という感じ。さて、大通りの向こう側にシーザーが控えているのだが、この信号もない通りを渡るのはかったるい。それにここはグラマーでセクシー系の女を揃えているので我輩の好みではない。とっておきのナタリーを覗くことにした。我輩はいつもこうするのだがナタリーは可愛い系の女が多くとりあえずハズレがないので最後までキープしておく。困った時のナタリー。

 店内に入ると顔なじみのコンシアが声をかけてきた。「ハーイ、先生、元気?やっぱり他の店にはいい女いなかったでしょ。」ヒアンが全部しゃべっちゃうのでこのコンシアには我輩の正体はバレバレ。「こいつに見つかっちゃしょうがない。まあとりあえずひとっ風呂浴びるつもりで買ってみるか。」と勝手なことを心でつぶやきながらサイドから1,900へ、そして1,700へと視線を移動させた。さすがナタリー、ヒットする女が4人はいる。ン、この胸騒ぎは何だ?いつもイイ女の子に巡りあう直前に感じる外道の直感。いっ、いたー。タマダーの中に、ゴクミか?いやアムロか?「先生、あのB56どーお?オッパイ大きいし、サービス抜群だし、わたしギャランティーね。」そんなコンシアの言葉も耳に入らない。「BX4番の子。あの子しかない!」ヒアンは我輩の指名した女の子を覗き込んで「やっぱりな。」という顔をしている。こいつには我輩の趣味もお見通しなのだ。

 役目を終えたヒアンは部屋の鍵を受け取るとホテルに帰って行った。我輩はワイをする初対面の彼女に「コンチェンハイ チャイボ?(チェンライの人でしょ)」とチェンマイ語で声をかけた。長年の外道の経験から我輩が一目で気に入る女は全部チェンライ人であることはわかっていた。方言というのは素晴らしい、たったひと言で意思の疎通が出来てしまう。「そうだけど、どうしてわかったの?」とチェンマイ語で返してきた。彼女の名前はオーン、19歳とのこと。微乳でテクニックも上手ではないが手抜きなしの一生懸命だったし、会話からその性格の明るさが伝わってきた。マットサービスを受けながら、「この子と帰るまで一緒にいようかな?」という考えが一瞬頭をよぎったが「いやいや、もっとイイ子に巡りあえるかもしれない。」と自分で自分に言い聞かせ、とりあえず明日も再訪することを約束して店を出ることにした。「まだ7時でしょ?これからどうするの?」と尋ねるオーンに「2発も抜かれちゃったからオジさんもう死んじゃうよ。飯食って寝る。明日また来るから、ところで明日は何時から出てるの?」「私まだ新人だから2時から出てる。」

 ホテルへ帰り、うたた寝していたヒアンに戦況を報告し、まず次なる精力補填のためソンブーンレストランで食事をとった。それから再びミラー、エマ、ハイクラス、シーザーと回ったのだがヒットしない。サブウェイやVIP等の按摩も覗いたがダメ。「ちょっと遠いけどポセイドン行って見るか。」コパカバーナ視察の後、我々はポセイドンに突入した。まず金魚鉢を覗いた。さすがポセイドンで数は揃っているのだが、ウーンもうひとつだな。3階のVIPラウンジでヒアンと一杯やることになった。さすが高いだけあって美人揃いなのだがどうも今日はスケベ心が湧きあがってこない。原因はわかっていた。女から女へ目を移してみてもさっきのオーンが浮かび上がってきてしまう。「泊まりの女はどうするの?」ふいにヒアンが声をかけてきた。「もう10時なのに今日はまだひとりしかやってないな。でも今日のラチャダーで最高なのはやっぱりオーンだ。もう一度ナタリーへ戻ってオーンをくどいてみるよ。ヒアン、遠くまでつき合わせちゃってゴメン。」

 ナタリーへ戻ってみたがオーンは既に売れていた。今日はこれが最後の客だと言う。これではくどくチャンスがない。しかたなくナタリーのトップレスバーに座りビールを注文した。オッパイまで見せて男を誘う女というのは服を着たままでは買って貰えないからこそ、こうしているのだろう。レベルはかなり低い。そんなことより今晩の女はどうしよう?ソイ6は5,6軒にわかれてはいるが女同士は皆顔見知りで通り全体で一つの店のようなものだ。路地に入った途端、マイが出てきてしまうだろう。そうしたら我輩が日本に帰るまでずっとホテルに居るだろうから今回の遊びもそれで終わってしまう。無理やり帰すのも可愛そうだし。「そうだ、ヒアン、スティサンのゴーゴーバーはどうだろう?」「ダメだよ。あそこの女は汚いよ。タイ人の僕でさえ行かないんだから。」タイ人が見て「汚い」のならやめておこう。タニヤじゃカンクンの約束で連れ出しても途中で帰っちゃう女が多いし、あそこの女は心がない。「そうだ、ヒアン、僕はまだ援交カフェに行ったことないんだ。グレースホテルに連れて行ってくれるかい?」「グレースじゃモーウェンの好きな痩せてて小さくてヌアっていう女は見つからないよ。どうせ行くんだったらサイアムの方がいいと思う。」「さすがヒアン、じゃあ早速そのサイアムっていう所に行こう。」「まだちょっと早いな、12時過ぎないと女が集まってこないよ。」カウンター越しに我々の会話を聞いていたトップレス女が「私だったら明日の昼まででも大丈夫よ。」と誘いをかけてきた。お前じゃ嫌なんだよ、このブス!でも気まずい、もう出よう。

 ヒアンを強引に連れ出し、彼のサニーでサイアムに向かった。着いたのは11時で女はまばらだったがカフェ全体が卑猥な雰囲気を発している。席に座りビールを注文するとヒアンが「こうして2時間も待っていれば店の外まで女でいっぱいになるよ。」 2時間!貴重な時間を費やしても今日はまだ1人としかやってないんだぞ。さらに2時間も無駄にできるか。ここで勝手な妄想が始まる。「待てよ、遅くなって来る女というのは仕事にあぶれた風俗嬢に違いない。ということは望み薄。逆にこの時間から来てる女というのは素人女に違いない。久々に素人でも食ってみるか。ウッシッシッ。」冷静になって考えればさっき覗いたポセイドンの方がずっとレベルは上なのだが、「相手は全部素人だ。」という思い込みからか見る目が違うのだ。席を立って探して見ると目と目が合った途端、微笑み返してきた女がいた。ちょっと太めだが背は小さいし顔もまあまあセーフ。「サワディカップ」と挨拶したがそのあとどうしていいのかわからない。席に戻りヒアンに「今日はあの女に決めた。どうやって交渉すればいいの?」ヒアンはさっと目をやり、「あんな女でいいの?モーウェンの好みのタイプと違うじゃない。」「もう今日は素人女だったら何でもいいよ。」

 ヒアンが目で合図を送るとその女はそそくさと我々の席にやって来た。何だこんな簡単なのか。女は泊まりで3,000と言うがヒアンは2,000を譲らない。時間は刻々と過ぎてゆく。店内にも少しずつ女が増えてはきたがやっぱりレベルは低い。今夜はこの女しかないだろう。「わかった。じゃあヒアンの顔を立てて2,000だけれどもチップを500あげる。これでどうだい?」女はにっこりと頷いた、ヒアンは我輩を睨みつけた。話がまとまるとヒアンは女に身分証明書を見せるよう要求し、自分の手帳にメモした。ホテルに帰ってからも財布とパスポートをすぐにセーフティーボックスに入れること、朝の一発が終わるまでは金を渡さないこと、飲み物に注意することを我輩に告げて、アパートへ帰った。良く出来た男だ。

 カフェが薄暗いのでわからなかったのだがよく見ると色は真っ黒。洋服で隠していたが腹は三段腹、若いだけがとりえ、素人女なのである程度の覚悟はしていたが風呂は別々、フェラはなし。これだったらナタリーのトップレス女の方がまだマシだった。後悔先に立たずととにかく一発キメて寝ようとすると、「もう帰りたいからお金頂戴。」「朝までの約束だろ。」と怒鳴りつけるとふてくされて寝てしまった。朝5時に起こされて「もう朝だから帰る。」と言い出した。寝起きの悪い我輩は怒りにまかせてこの女の股を強引に開き、朝立ちのままのクワイをぶち込んだ。「こんなセックスをするためにバンコクまで来たんじゃない。」我輩の心は泣いていた。コトが済みこの女を追い返した後、再び眠りについた。まどろみの中にはにっこりと微笑むオーンの顔が浮かんでいた。





第2章   2001年7月    HONKY TONK WOMEN

 次の朝、気がついたらもう10時近くになっていた。あわてて1階のビュッフェで朝食を済ませヒアンに電話かけた。今日はパトナムへ行ってニセブランドバッグを買わねばならない。診療所のスタッフへのおみやげ用だ。風呂屋のオープンする2時までには用事を済ませておきたい。ホテルへ駆けつけたヒアンの車でパトナムへと向かった。ニセブランドを漁りながらも我輩の頭の中はどうどう巡りを繰り返している。「これからどうしよう。今日の夜はどうしてもマイではなくオーンと寝たい。ということは昼間は他の風俗を梯子してから夜ナタリーへ行ってそのままホテルに連れ込むのがベストだな。だけど昨日は何も考えずに2時に約束しちゃったもんなー。よし、決まった。2時にナタリーへ行ってオーンをくどいて、仕事が終わったらホテルへ来てもらおう。その間に別の風呂屋で遊べばいい。もしオーンがダメだったら、しょうがない、その時はソイ6へ行ってマイを連れ出そう。計画は綿密に、昨日の過ちは繰り返さないぞ。ウッシッシッ。」

 買い物を済ませナタリーに着いたのは丁度2時だった。なじみのコンシアは「先生、こんな時間に珍しいね。どうしたの?」「昨日のオーンちゃんと2時に約束したの。」「えっ、ちょっと待って、オーンは遅刻が多いんだよ。」と言ってあわててオーンの携帯に電話を入れていた。「しまった。先に他の風呂屋に行っておけばよかった。」とりあえずビールとつまみを注文しヒアンと世間話をしながら待っていると20分程でオーンは到着した。「本当に2時に来てくれたの?ゴメン、日本人の客って約束守ったためしがないから。」息を切らせながら言い訳して我輩の横に座った。ビールもつまみもまだ残っていたので「食事は?」と勧めたのだが「お腹いっぱい。オレンジジュースでいい。ところであなたは食事済んだの?」言われてみれば我輩も昼飯はまだだしヒアンに至っては朝も昼もまだだ。ヒアンは「マイペンライ」と言うがこういうところで気を利かせるのがタイ人と上手につきあうコツだ。それに時間がたっぷりあるとまた2発抜かれてしまう。今日これからのことを考えればここで食事でもしてもう少し時間をつぶすのが得策かもしれない。それにこれからヤれるとわかっている女とこうして時間を過すのもいいもんだ。

 オーンはヒアンと二言三言会話をかわすと(タイ人同士だと速すぎて聞き取れない)食事を注文した。「この店はヌアの女の子が多いからもち米も用意してあるの。それと辛くないものだけをパクチー抜きで注文したから。」この女なかなか賢い。昨日何気なく交わした会話、我輩がタイではうるち米は口に合わないがもち米は食えること、辛いものとパクチーの臭いがダメなことをちゃんと覚えていた。しかし自分で勝手に注文してしまうので、「やられたかな?」と思った。ちなみにもち米はヌア人、イサーン人の主食である。皿に山盛りのもち米が置かれたので「こんなにたくさん食えないよ。」と言うと、「大丈夫、半分私が食べるから。」何だ、お腹すいてるんじゃないか。スプーンとフォークでぎこちなさそうに食べているので我輩は指でもち米をつまみながら「手で食べた方が食べやすいだろう。」と言うと、「エヘヘヘヘ」と笑いながら慣れた手つきで食べ始めた。なかなか素直でよろしい。こうして3人で世間話をしながら食事を楽しんでいたのだが、酒が回ってきたヒアンがコンシアと一緒になって我輩のナタリーにおける過去の遍歴を暴露し始めた。ヒアンはまだしもこのコンシア、「客の秘密は絶対にしゃべらない。」という水商売の基本を知らないのか?しかし最後にこのコンシアは「でもね、先生が2日続けて来たのはオーン、君が初めてだよ。」このコンシアにチップ100B。

 気がついたら1時間経っていた。チェックビンしようとするとオーンは「昨日チップたくさん貰っちゃったし、ちゃんと約束通り来てくれたのに遅刻しちゃったから私のおごり。」と言って金を払わせようとしない。こうなるとこちらも引っ込みがつかないし我輩は風俗嬢のこうした心遣いに非常に弱いのだ。コンシアに「じゃあ時間もなくなってきたからダブルで。」と言って3,400B払ってしまった。既に予定が狂いはじめている。ヒアンはこれから仕事があるということで7時に部屋で待ち合わせの約束をして去っていった。個室に入るとまずディープキッス、昨日とは感触が全然違う。こちらの思い込みかもしれないが男と女というのは、たとえそれが金のためであっても、一度体を合わせてしまうと他人ではなくなる。濃厚な一戦を終え二人でベッドに横になっていると何か熱いものがジーンと胸に込み上げて来た。こんな気分を味わうのは9年前、ポール マッカートニーの東京ドーム以来である。長年積もり積もった体内のストレスがスーと抜けていく気分、我輩もまだ若いかな?

 我輩は既にオーンにメロメロになっていた。もう今日の計画などどうでもいい、明日の朝までこの子と居たい。エージェント付でないことは聞き出した。問題は男がいるかどうかだ。男がいるとホテルに来て朝まで居てくれる確立が低い。帰国日の朝の5時とか6時に女に帰られちゃうとシラけるんだよね。せめて9時まではいて欲しい。いや、それよりも問題は我輩と外へ出てくれるかどうかだ。まあほとんどの子がデートOKだが中には絶対出ない子もいる。万が一この子を逃したら、、、、昨日のサイアムの恐怖が脳裏をよぎった。金はどうでもいい、確実に連れ出す方法を考えよう、連れ出せさえすれば後はどうにかなるだろう。ふと横を見るとオーンがあの悪戯っぽい微笑みを浮かべながら我輩を見つめている。ウッ、やっぱり可愛い、もうダメ、無抵抗。「オーン、時間は6時20分まででしょ。もし僕があと3回分のお金を払ったらどうする?」「エヘヘヘヘ」「7時にヒアンと食事する約束したでしょ。でも男同士じゃつまらないからオーンも一緒だとうれしいんだけどな。」話が終わらないうちにオーンはベッドから飛び起き、「じゃあ早く体洗って出かけましょ。」なあんだ、簡単に第一関門通過。これからが我輩の腕の見せ所、えっ?出かける?あの、、まだ5時だし、、、そっ、、その、、もう1回、、まあいいか、ホテルへ連れ込めばいつでもヤレるのじゃ。

 1階で支払いを済ませオーンの着替えを待っているとコンシアが寄ってきた。「これからデート?先生はやさしいから心配ないって私からオーンに言っておいたからね。ホテルでもどこでも連れてって。」ミエミエのチップ要求。しかしここはナタリー、これからも絶対に世話になる。コンシアは味方につけとく必要がある。チップ100B。「遅くなってゴメンなさい。」10分後、オーンはジーンズ姿で現れた。実は我輩は以前、このようにミラージュから連れ出した女に食事だディスコだと連れ回され、あげくのはてにバイバイされた苦い経験があるのだ。コンシアに文句を言ったのだが取り合ってくれなかった。今回は慎重にせねば。店を出るとオーンはまるで恋人同士のように我輩に寄り添ってくる。この子本当に新人なのか?「これからどうする?」オーンが聞いてきた。ここが正念場、「あっ、あの、ヒアンと7時に待ち合わせたでしょ。ぼっ僕の部屋へ来る?」「えっ、お部屋?怖ーい。エヘヘヘヘ。」こいつ絶対新人じゃない。まあいいか、とりあえず部屋の連れ込みには成功。

 エメラルドホテルはJF有りだが午後9時前だったら連れ込み自由である。「オーン、たまにはこうやってお客さんとホテルに来るの?」「ううん、私まだ4月にこの仕事始めたばかりだもん、これが初めて。」部屋に入るとオーンは我輩の膝に座り両手を首に回してきた。(初めてにしちゃ怖がる様子が全然ないな。)「あっ、あのさ、今夜のことだけどさ、あの。」コンドームを見せれば意思が通じるだろう。我輩は残った3つのコンドームを見せ、「今夜ふたりでこれを使っちゃいたいんだけど。」と夜の交渉に入るつもりで机の引き出しを開けた。(なっ、ない。昨日のデブ女、全部持っていきやがった。)「ゴメン、コンドームがないんだけど、どうしよう?」我輩は何を言っているのだ。「下のセブンに売ってるから、それと歯ブラシも買ってきましょうね。」やった、歯ブラシということは明日の朝までここに居るつもりなのだな。これでもう交渉の必要はない、確認のため、「明日の朝まで一緒にいたいな、大丈夫?」「飛行機は何時?11時、じゃあ9時にここを出れば間に合うわね。」考えて見れば今日だけでこの女に8,500Bも払ったのだ。朝までやり狂うのが当たり前じゃないか。

 オーンを膝の上に乗せて彼女の家族の話やチェンライの話をしていると、約束通り7時にヒアンがやって来た。オーンを見たヒアンはびっくりして、「連れ出すんならオレに言ってよ。モーウェンがやるとこの前のミラーみたいに失敗することがあるから。」「ミラーって何の話?」オーンが悪戯っぽい微笑みを浮かべ聞いてきた。「さあ早く食事に行こう。9時過ぎちゃうとJFだ。」我輩はその場を取り繕い、せかすように二人を部屋の外へ連れ出した。1階のエレベーターボーイにヒアンがオーンの身分証明書を見せ何か話している。「こうしておけば9時過ぎてもJFがかからないの。」こういうところはヒアンは抜け目ない。ロビンソンのMKに席を取った。席につくなりオーンが「ちょっと。」と言って外へ出て行った。10分経っても帰ってこない。トイレにしては長過ぎる。「まさか逃げたのでは?」我輩は疑心暗鬼になっていた。ヒアンは「ハハハ、そんなわけないでしょ。もし逃げたとしてもナタリーのコンシアに言えばすぐ連れ戻せるよ。」しかし無理やり連れ戻した女とやっても面白くも何ともない。

 そんな話をしていると息を切らせながらオーンが戻ってきた。「遠くまで行っちゃった。」とビニール袋に詰め込まれたもち米を差し出した。わざわざ我輩のために近くの屋台まで買いに行ってくれたのだ。といってもここはロビンソン、屋台まではかなりの距離がある。ゴメン、オーン、疑ったりして。これからはもっと素直になります。もち米をつまみながらタイスキに舌鼓を打つ、話ははずんだ。気がつくとヒアンとオーンが我輩を見つめながらニヤニヤしている。「何だよ。」と聞くとオーンが我輩の顔を覗きこみ、「私が逃げたって?それとミラージュの女に逃げられたんだって?エヘヘヘヘ。」ヒアンのおしゃべりめ、でもまあいいや、オーンとも大分打ち解けた。その後、ロビンソンをうろつき9時過ぎにホテルへ戻った。JFゲートは無事通過。

 オーンはかいがいしく冷蔵庫からビールを運んだり、ウーロン杯を作ったりしている。そしてヒアンと我輩にはわからない早口のタイ語で楽しそうに歓談している。このヒアンという男、悪い奴ではないのだが酒が入ると動かなくなる。早く帰って欲しい。もう11時なのだから我輩もそろそろオーンとやりたいよ。まあいつもの調子で冷蔵庫のビールがなくなれば帰るだろう、もう少しの我慢。我輩は焼酎を飲んでいたのだが最後の1本のビールをヒアンと分け合った。「よし、このグラスで最後だ。」一気にグラスを開けた。しかしヒアンはチビチビやっている。オーンが「下のセブンでコンドームと歯ブラシ買ってくる。」と言って降りて行った。この子本当に客とホテルに来るのが初めてなのだろうか?我輩の経験からするとホテルに連れ込んだ風俗嬢というのはホテルのボーイの目を気にして決して部屋の外へ出ようとしない。相当手馴れているのではないのだろうか?しばらくして帰ってきたオーンの手にはハイネケンの大瓶2本が握られていた。えっ、これでまたヒアンが帰らないよ。オーンは単に気を利かせてビールを買ってきただけなのか、それとも我輩とやるのが嫌でヒアンを引き止めようとしているのか。

 ヒアンが明日8時半に迎えに来ることを約束し帰った時には12時を大きく回っていた。やっと二人きりになれた。これからちょっとムードを盛り上げて、と思っていたらいきなりディープキッス、「疲れたでしょ。今お風呂にお湯を入れてくるからもうちょっと待ってね。」と言うや否やいきなり素裸になってしまった。風呂屋の女の欠点はこれ、人前で裸になることに何の抵抗もない。置屋の女だと恥じらいながら脱ぐのに、これでは淫靡さもへったくれもない。とにかく我輩とヤルのを嫌がっているわけではなさそうだ。まあとりあえず良しとしよう。タオルを巻いてバスルームから出てきたオーンは我輩の膝に座り甘え始める。おーよしよし、いい子だ。でもちょっと待てよ、これってナタリーの個室と全く同じパターンじゃないか。「何かしらけるな、いやきっとまだ本当の恋愛というものを知らないので恋人にどのように接したらよいのか知らないのだろう。」相手が可愛いとどんなことでも善意に解釈出来てしまう、まるでユニバの美女軍団に接する韓国男のようだ。

 お風呂はボディ洗いから始まったがこれもナタリーと全く同じ、ベッドへ戻りマッサージタイムを挟んで2回戦を終えるとかっきり2時間が経過していた。やっぱり単なる仕事なのかなあ。そういえば2回戦ともこちらが攻める余裕はほとなどなく終始オーンの主導で果てちゃったなあ。いやきっとまだ本当の男と女の愛し合い方を知らないのだろう。うん、善意の解釈。そして眠りに就こうとしても我輩の腕枕から離れようとはしない。「腕痛くない?」ささやくような声で聞いてきた。「ううん、全然、うれしいよ。」こう答えるしかないでしょ。ひょっとしてこれも仕事のうちだと思っているのだろうか?ナタリーの個室でも客とこうしてうたた寝することあるだろうからな。そんな事を考えながら眠りについた。
 
 明け方、ふと眼を覚ましてみるとオーンは我輩の腕の中で小さな寝息を立てていた。「ああよかった、仕事じゃなかったんだ。我輩のこと気に入ってくれたんだな。ウッシッシッシッシ。」後から考えてみると単に疲れてそのまま眠っちゃっただけかも知れない。でも全ては善意の解釈。起こしてもう一発やろうかと思ったが何故かそれがとても悪い事のように思えてきた。それに腕はちょいとばかり痛かったがこうしていることがとても幸せに思えてきた。オーンの寝顔をみつめながら「この子も家族の生計を支えるためにしかたなくこんなことをやっているんだろうな。」そんなことを考えていると急にオーンが愛おしくなりそっと額にキスをした。再び眠りに就く。

 7時を過ぎた頃、突然オーンに起こされた。「ゴメン、寝坊しちゃって時間ないけどお風呂にお湯入れてあるから。」えっ、朝もナタリーサービス有り?この子出来すぎだよ。髪の毛まで綺麗に洗ってくれて恒例のフェラへと移った。「これからベッドとなるとちょっと時間がないかな。荷物の整理もまだだし食事もあるしチェックアウトに時間がかかるし、でもこのフェラ、本当に気持ちがいい。」こんなことを考えていたのだがフェラの時間が異様に長い、時間がなくなるぞ。しかしオーンのフェラは激しさを増してゆく。そうか、オーンの意図がわかったぞ、時間がないからこのまま口で終わらそうって寸法だな。うーん、どうしよう?できれば最後の一発決めたいけど、昨日に比べれば地獄と天国だよな。でっ、でもこれ本番より気持ちいい、えっ、えーと、羊が一匹、羊が二匹、あっ、もうだめ。オーンの口の中で果ててしまった。「この子本当に客とホテルに来るの初めてなのだろうか?手際が良すぎる。いや、きっと初めてだからこそ手を抜くことを知らないのだろう。」善意の解釈。

 すっきりした気分で荷物をスーツケースにぶち込んでいると身繕いを終えたポーンがバスルームから出てきた。我輩が「そろそろ急がないと。ここのチェックアウト結構時間がかかるんだ。」というとオーンは「大丈夫。」と言ってフロントに電話を入れた。恥ずかしいことに我輩はチェックアウトというのはフロントまで降りていってするものだとばかり思っていた。電話で出来るなんて、「やっぱりこいつ絶対に初めてじゃない。」8時半きっかりにヒアンがフロントに現れた。「へへへ、モーウェン、昨日は何発やった?」バカ野郎、お前が気を利かせてもっと早く帰ればもっとたくさん出来たのに。「1発しかやってないよ。」過少申告。朝食のチケットが1枚あるのを思い出し、「オーン、いろいろとありがとう。また会おう。これもったいないから君が食べていく?」「エッ、私も空港まで行くよ。」

 バンコクで女を買い始めて10年、初対面の女の子に空港まで見送りに来て貰ったことは初めてだったので、それだけでも感激してしまっていた。空港のレストランでも我輩のそばにピッタリ寄り添い「また会いたい。」を連発する。お水の女から同様の言葉は今までイヤというほど聞いてきたがオーンの言葉にはお水独特の濃さがない。かといって貧困ゆえに男の援助を求めるような切迫感もない。例の悪戯っぽい微笑みを浮かべごく自然に言い放つのである。この19歳の風俗嬢から高貴さすらも感じてしまう。我輩は完全に翻弄されていた。「惚れられちゃったかな?こりゃ次回も決まりだな。よしダメ押ししておこう。ウッシッシッシッシ。」ポケットにはまだバーツが3.000ほど残っていた。ヒアンがトイレに立ったすきに我輩はオーンに「今までバンコクでたくさん女を変えてきたけど君だけは特別だった。もうこれからは女を変えない、君一人だ。今回は本当にありがとう。これ残った金全部。」と言って有り金全てをオーンに渡した。口では何とでも言える。この次もこんな楽しい気分で過せると思えば安いものだ。しかしこの言葉が本当になり2年以上経った今でも継続中であるとはこの時は思いもしなかった。「そのかわりここの飲み代はオーンが払ってね。」

 ヒアンと入れ替わりにオーンがトイレに立った。ヒアンは小声で「モーウェン、オーンはどうだった?サービス良かったでしょ。オレがオーンにモーウェンはチャイディーだからサービス良くすればチップもたくさんくれるし、この次も指名してくれるぞって言っておいたんだ。」ああ、それを先に言えよ、バカ。そんなことだろうと思った、オーンはヒアンの指示に素直に従っただけだったのか。しかし男の言葉に素直に耳を傾けるだけでもタイ女にしては上出来だ。またまた善意の解釈。オーンが支払いを済ませ入管の入り口まで行き、いよいよお別れの時、まずヒアンに「チョクディーナ」と握手をした。オーンとも握手をしようとするといきなりディープキッス、ここまでやるかよ、でも可愛い。オーンを抱きしめながら目をヒアンにやると彼はソッポを向いていた。入管に入ろうとしてふと気がついた。「オーン、ゴメン。500B返して、空港使用税払えない。」トホホホホ。





第3章  2001年12月   SATISFACTION

 我輩の20年来の友人にヤバー三等兵という男がいる。元ヤクザだったのだがその根性なしの性格のため極道からそれてしまい日比国際結婚の仲介やタイのジャパゆきシンジケート等で生計を立てている。我輩を外道に落とし込んだ張本人でもある。最近ではタイルートが不調なためインドネシアに進出しているのだがこの男の素晴らしい点は外国語をまたたくまにマスターしてしまうこと、この才能を生かせばわざわざヤクザにならなくても済んだのに。三等兵の仕事のパートナーはティックというシンジケートのボスだった。こういう仕事に手を染めるのは勿論華僑である。ヒアンはかつてティックの下働きをしていたため我輩と知り合うこととなった。ティックはあまりお友達になりたくない人種であったがヒアンは真面目で実直な青年だったので、我輩はバンコクにいる時はいつもヒアンを指名で世話をしてもらっている。ティックも一時はアタッシュケースにバーツを一杯に詰め、12気筒ベンツを転がすほど羽振りが良かったのだが世に言う「悪銭身につかず。」である、ある時ギャンブルにハマり大借金をつくり、本妻と5人の妾を残して失踪してしまった。

 帰国後も顔つなぎのためオーンとは定期的に連絡を取り合っていたのだが、10月に三等兵は訪泰することとなった。我輩はオーンが欲しがっていた日本で発売されたばかりのGBAを三等兵に託し、オーンには彼の定宿であるパラッゾを訪ねるよう電話を入れておいた。三等兵はちゃっかりとオーンに友達を紹介してもらい随分と安く楽しんできたようである。彼の相手をしたのはナタリー1×9番ジーン、彼女は雲南省出身の24歳、17歳の時メーサイに売られエージェントが切れた後バンコクへ出てきたのだと言う。三等兵曰く「オレもうすぐ還暦だけど今までにあんなに尺八のうまい女に出会ったことはなかったよ、この年になって口だけでイカされちゃったよ。」三等兵はオーンから我輩へのおみやげを預かってきた。エイの皮でできた財布、後でロータスで調べてみたら1,500Bの代物だった。今でも愛用している。

 さて12月となった。子供の冬休みに合わせた恒例の訪泰である。少しでも長くオーンと一緒にいたい、今回は仕事にかこつけてまず家族を先にチェンライへ行かせた。我輩が後を追い、しかも夜便を使えば行きもバンコクでオーンと一泊出来る。帰りも前回と同じ手を使えばまた2泊出来るな、ウッシシシ。しかしながら妻にバレたら殺されること間違いない。我輩はオーンに電話をかけ午前1時にエメラルドに着くのでナタリーでの仕事が終わったらロビーまで来てくれるよう頼んだ。しかし彼女は「いいよ、仕事休んじゃう。空港で待ってるから。TG773ね。」そういうことならヒアンなんぞもういらない。女が絡めば友情なんぞはブタのケツ。しかしこの子、やること成すこと全部我輩の心の急所を突いてくる、もしかして風俗業界が長くて男の扱いに相当長けているのではないだろうか?いやいやあそこはまだピンクだし形も崩れていない。新人であることに間違いはない。きっときれいな体で我輩を迎えたいのだろう。全ては善意の解釈。

 ドンムアンの税関を出ると果たしてオーンは待っていた。こうして風俗嬢の出迎えを受けるというのは10年のバンコク外道歴でも初めてのことだったが、なかなか良いものだ。だがちょっと待てよ、この子本当にオーン?ゴクミじゃないぞ、それにちょっと老けたような、よく見るとスッピンだ。(あれえ、失敗したかな、帰りは別の女にしようかな。)などと考えているとディープキッス、我輩思考停止。タクシーの運ちゃんが声をかけてきた。「ダメ、白タクは高いから空港のタクシー使いましょ。」何故チェンライの田舎娘がそんなこと知ってるの?この子他にも客を空港まで迎えに来たことあるんじゃないかな?いやいやタイ人にとってはこれくらい常識だろう。善意の解釈。

 ホテルの部屋に落ち着き我輩は洋服やら果物やら日本からのおみやげを取り出した。オーンは甘栗に目を輝かせ「これタイにもあるけどすごく高いんだよね。でもとってもおいしいの。」この後、天津甘栗は必須のおみやげとなる。「ところで今日いくら?」我輩は唐突に質問してみた。「えっ?」「あのさ今日は僕のために仕事休んじゃったでしょ。それでこれから僕と、その、あれでしょ。」「いくらでもいいよ、エヘヘヘヘ。」「そう言われると困っちゃうんだな。」「じゃあ百万バーツ。」このムスメ我輩をからかっているのか、しかしこの悪戯っぽい瞳は間違いなくあのオーンだ。人間の第一印象というのは恐ろしいものである。このスッピンのままでナタリーの雛壇に並んでいたいたとしたら我輩は指名しなかったかもしれない。しかしこうなった今は愛しくてしょうがない。「ところでオーンってナタリーじゃ1,700Bでしょ?そのうちのいくらが取り分なの?」「950なんだけどそのうちからタオル代とかスタッフのチップとか引かれて、でもお客さんからのチップがあるから1,000くらいかな。」「それでお客は1日何人くらい?」「いそがしい日は5人ていう時もあったしゼロの日もあった。だいたい2,3人ていうとこかな。」3,000バーツという数字が頭をよぎった。

 バスタブにお湯が溜まると前回と同じようにアッというまに素っ裸になり(しかしどうして風呂屋の女というのは色っぽく服を脱ぐということが出来ないのだ?)我輩を迎え入れた。型通りの湯船の儀式が終わりいよいよ5ヶ月待ち焦がれた本番の瞬間、前回とは違う感慨があった。何と言うか松茸と姫貝がピッタリフィットするという感触、我輩の目に狂いはなかった。我輩にとって何百人かに一人の女だ。ゴクミじゃなかったけどやっぱり帰りもこの子にしよう。マッサージタイムを挟み2回戦が終了するとピッタリ2時間が経過していた。やっぱり仕事されているだけなのかなあ。

 翌日もチェンライへ行く我輩をオーンは空港まで見送りに来てくれた。我輩は感激してしまった。仕事でここまでするのだろうか?もうこの子のことはいちいち疑うのはやめて素直な気持ちで接しよう。「あのさ、チェンライに友達がいるって言ったでしょ。あれはウソで本当は僕の奥さんってタイ人なんだ。」空港のレストランで真実を告白した。これで終わってもしょうがない、でもオーンとの間は嘘で取り繕いたくない。年甲斐もなく純情な気持ちになっていた。「ウッフッフ、ヒアンから聞いて知ってるよ、ノンブア村でしょ、私の実家から車で20分くらいかな。」あのバカ!あのおしゃべり!「あっ、そう、あの、知ってたんだ。でっ、でもさ、タイ人の奥さんがいながら君とこうしている僕のことどう思う?」気が動転してしまってなにをしゃべっているのかわからない。「でも日本人の男の人って皆そうなんでしょ。」外道諸君、ありがとう!「う、うん、日本人って皆こうなんだよね。これが普通なんだ。うん、うん。とっ、ところでさ4日後にバンコクへ戻ってくるんだけど、あの、」「TG133でしょ、大丈夫、ちゃんと迎えに来るから、仕事は勿論休んじゃう。」我輩、この女に全てを見透かされているのではないだろうか?財布から5万円を取り出し「これ、チェンライでカミさんに財布をチェックされると取り上げられちゃうから、オーン、預かっといて。」オーンを信頼してるということを形であらわしたつもり。

 4日後、空港ではオーンが待っていた。しかしオーンだけではない、ヒアンもいる、ヤバい。それに、えっ、ヤバー三等兵とこの時初対面のナタリー1X9番ジーンも。何が起こったのか?「先生、びっくりしたでしょ。急に用事ができてこっち来たんだけどジーンに連絡取りたくてヒアンに電話してオーンに呼び出してもらったんだ。」ああそうですか。ヒアンは我輩の股間を握りしめて、「元気?」うっ、怒ってる。オーンからの恒例のキッスは、、、、なしでした。

 エメラルドホテルに落ち着き我輩の部屋で5人で歓談しているとジーンの携帯が鳴った。早口なので我輩には会話の内容がわからなかったがまずオーンの顔色が変わり、続いてヒアンも、三等兵が我輩の耳元で囁いた。「どうもヤバい話だな、入管がどうのこうの言ってる。」その後、我輩はのけ者で4人の話し合いとなった。ちなみに三等兵はタイ語ペラペラ。途中でオーンが、「お願い、ジーンを助けてくれるようにモーウェンからもヒアンとヤバーさんに頼んで。」と言うので我輩は訳がわからなかったが2人にジーンの力になるようにお願いした。三等兵は、「詳しい話はオーンから聞いて、それと先生、大使館の一等書記官の名刺持ってたよな。ちょっと貸してくれ。」「持ってるけどこの人もう5年前に日本に帰っちゃったよ。」「大丈夫、悪いことには使わないから、タイ人のメンダー(ヒモ)一匹やつけて来るだけだから。」

 ヒアンと三等兵が出て行くとオーンは「さあ、私たちも出かけましょ。」その後我々はタクシーでジーンのアパートへ行き荷物を全部持ち出し、帰りにジーンがATMから10万バーツを引き出しホテルへ戻った。しばらくするとヒアン達が意気揚揚と戻ってきた。「いやいや大成功、あの野郎真っ青な顔して逃げてった。」三等兵の話によるとさっきの電話はジーンの「彼氏」からだった。このタイ人はジーンに、彼女がタイの入管に狙われていて入管の職員がこの男に接してきたというのだ。今空港近くのホテルに2人でいて入管職員に対し20万Bでジーンを見逃すよう話をつけたから金を持ってきてくれ、というものだった。雲南の不法就労者であるジーンは完全に信じてしまった。2人のタイ人も半分信じたようだ。しかし元ヤクザであり日本人のヤバー三等兵はウソを見抜いた。我輩も言葉がわかれば見抜いたであろう。

 三等兵曰く、「メンダーが金目当てなことは一発でわかった。まずヒアンとオーンに事情を話し納得して貰った。次にオーンからジーンに、騙されているのだから男と別れるように説得させた。ジーンも今まで何度も結婚をエサに金をせびられていたのでウスウス感づいていたし、納得した。ジーンは貯金通帳とパスポートを男に渡しちゃってあるという。ジーンにばれたことがわかったら男は預金の引き出しにかかるだろうからジーンのカードでお金を下ろさせた。ATMは1日10万Bしか下ろせないから午前0時を過ぎたらもう1回引き出せば20万全額が引き出せる。今日はもう銀行は閉まっちゃったから通帳があってもどうにもならないさ。20万貯金があるを知ってて20万要求するなんざはまだ素人だな。ジーンにはアパート引越しさせちゃえば奴は追ってこれない、こうしておいてヒアンは華僑だから中国の公安警察、オレは先生から借りた名刺で公安に協力する日本大使館の書記官ということで奴らの部屋に乗り込んだんだ。現役時代を思い出すぜ。」三等兵もかなりジーンに入れ込んでるんだな。フェラチオ効果恐るべし。

 「ジーンは何処へ引っ越すの?それとヒモ男がナタリーへ来たらどうする?」素朴な疑問をぶつけてみた。オーンは「しばらく私のアパートに住まわすから大丈夫、それとナタリーはコンシアに言っておけば問題ないわ、コンシアってこういう時にためのボディガードでもあるの。」考えてみれば我輩は何もやってない。何とかこの場を取り繕らねば、「オーン、僕の考えた作戦って結構うまくいったでしょ。」三等兵やヒアンに聞こえないような小声でオーンに囁いた。「ありがとう。何てお礼をすればいいか?」「いいよ、オーンの友達なんだから何でもやってあげるよ。それよりオーンのボーイフレンドは大丈夫?タイの男なんか信じちゃだめだよ。」我輩はここぞとばかりに聞いてみた。「えっ、私に男なんかいないよ、男はモーウェンだけ。」ウソでもうれしい、それにこれでオーンにタイ人の男がいないことはわかった。

 この事件を機会にオーンの我輩に対する態度がガラリと変わった。今までは我輩に尽くしてくれても何かぎこちなかったりビジネスライクだったのがごく自然なふるまいに変わった。ナタリーの個室のようなわざとらしい甘え方もしなくなったし、我輩の愛撫も素直に受け入れるようになった。セックスも俄然楽しくなったし既に客と風俗嬢のそれではなくなっていった。「モーウェンもヤバーさんも本当にいい人、回りの人は私たちを犬扱いでまともに話も聞いてくれない、全てはお金、でも本当に助かったわ。」いい人って、あの、三等兵はタイ人の人身売買にかかわってたんだけど、まあいいか。三等兵はよく言っていた、「タイ娼婦を落とすのに金も甘い言葉もいらない、本当に困ってる時に親身になって助けてやればいいんだよ。」

「あのね。」オーンが急に真顔になって話し始めた。「チェンライの私の町の近くでね建売住宅が発売されたの、25万バーツなんだ。」あちゃー、もう金の無心かよ、そんな女じゃないと思ってたのに、この野郎、これで終わりだな。そんな我輩の怒りを無視するかのように彼女は続けた。「ナタリーに8ヶ月勤めてやっと25万バーツ貯まったの、それでね両親に家を買ってあげるの。もともとこの仕事を始めたのもそのためだったの、だからもうすぐ仕事をやめてチェンライへ帰る。この仕事嫌だもん。」ああ良かった、金の無心じゃなかった、一瞬でも疑ってゴメン。しかし、ということはオーンとはこれで最後?「じゃあ僕はどうなるの?」「バンコクには可愛い子たくさんいるでしょ。」我輩はダダをこねる子供のように、「やだよ、オーンじゃなくちゃやだよ、やだ、やだ、やだ。」「わかった、じゃあ今度モーウェンがタイに来るのはソンカーンでしょ、その時まではバンコクにいるから。」

 金の無心ではないことがわかって我輩も軽口になっていた。「ねえオーン、そのこと両親は知ってるの?」「まだ内緒。」「あのさ、タイのお百姓さんってみんな村に
溶け込んじゃってるでしょ、いまさら引越しするの嫌なんじゃないかな。」「そうかしら?」「オーンの家って農家なんだから土地は広いでしょ、25万あれば結構いい家建てられるよ。自分の家なら庭の野菜とか果物とか取って食えるけど建売となるとそんなものも全部買わなくちゃならないでしょ、結構お金かかるよ。水道も井戸が使えないし。」「えっ、家って自分で建てられるの?」そんなことも知らないのか。「まず近所の町を見渡して新築でオーンが気に入った家を見つける。訪ねていけば向こうも自慢したくてしょうがないんだから中も見せてくれるし、大工さんの名前やいくらかかったかも教えてくれるよ。但し見栄を張るからちょっと高めに言うけどね。大工を決めたら相談に行く、この時丸投げしちゃだめだよ、ボラれるから。まず人件費だけを決める。資材は大工の要求に従って君のお父さんがセメントなりレンガなりを買いにいくようにするんだ。こうすれば建売なんかよりずっといい家ができるよ。建売なんて土地のないサラリーマンが買うものさ、百姓が買っちゃだめだよ。」「ふーん、さすがタイ人の奥さんがいるだけあるわね。」ヤブヘビだったかな。「これからチェンライに帰って両親に相談してみる。」この後は夢のようなセックス。

 帰りの入管の前、我輩はオーンと、三等兵はジーンと熱いディープキッスを交わした。2組のカップルの間には、呆然と立ちつくすヒアンの姿があった。









第4章   2002年4月     LADY JANE

 年が明けてからオーンに連絡を入れてみると彼女はチェンライに帰っていた。「こっちへきて両親に相談してみたんだけどやっぱり引越しは嫌だって、モーウェンの言うとおり庭に新築することにしたの。」我輩の経験からすると妻も含めてタイの女というのは他人の忠告など一切聞かないものだと思っていた。それがこの子は家を建てるという一世一代の大事業に我輩のアドバイスを聞き入れてくれた。外道をやってて本当に良かった、こういう女の子と知り合うことも出来るのだ。「言われたとおりにあっちこっち探してみたら隣町で新築したばかりの気に入った家があったの、訪ねていったら大歓迎で家の中全部見せてくれたわ。寝室が4つあって40万Bだって。」「家主が40万って言うんなら30万ていうとこだろう。」「じゃあウチは寝室3つでいいから25万でなんとかなるかな?」「だって妹と弟がいるんでしょ、オーンと両親と、4つじゃないの?」「妹は結婚してアメリカに居るから。」「えっ、オーンが19歳でしょ、妹って何歳よ?」「私19歳って言ったっけ?ああそうか、お客さんにはそういうことにしてるんだ、本当は昨日誕生日で24歳になったの。」そうだよな、あの物腰といいオッパイの柔らかさといいどう考えても10代の娘じゃなかったよな。ちょっとがっかりしたのだが「誕生日おめでとう。」と言い電話を切った。

 さて4月がやって来た。今回の訪泰は家族抜きで、友人の市役所職員と町の不動産屋をチェンライの我が家に招待し、ソンカーン祭りを見せてやるというものだった。妻も行きたがったが子供の学校を理由に諦めさせた。全ては計画通り。夜便で行くので当日の2人にあてがう女はオーンに予め好みを言って調達しておいてもらった。市役所は「とにかく巨乳」、不動産屋は「知性的な女」という注文だった。職業柄の趣味がモロに出ていてなかなかおくゆかしい。オーンには3人でエメラルドのロビーで待っていてもらい、ヒアンに空港まで迎えにきてもらった。こうしてジョイナーフィーなしで堂々とチェックインしたのだが、不動産屋は小声で我輩に、「先生、あんなブスに入れ込んでるの?」失礼な奴だ、しかしながら今日もスッピンだな、何考えてんだろうこの娘は。

 「今ソンカーンで皆故郷に帰っちゃてるからあまりいい子いなかったんだ。一人はシリコンだけどオッパイ大きな子でもう一人は雲南の医学生なんだけど、気に入ってくれたかなあ。」部屋に落ち着くとオーンが切り出してきた。「いいよあんな奴ら、どうだって。」さっきの怒りが収まらず我輩はこう答えたが、確かに二人ともたいしたタマではなかった。やはり外道はソンカーンにバンコクへ行くべきではない。「そんなことよりオーン、仕事やめちゃうんでしょ。今日で僕たちも最後かな?」「ウフフ、最後だったらどうする?」「今夜は寝ないでヤリまくる、じゃなくてこれからも会いたいな。」「24歳のおばあちゃんと?」やっぱり年のことは気にしているんだな。「そんなことないよ、僕も今までたくさんの女とつきあってきたけどオーンが最高だよ。僕が独身だったら君と結婚したいくらいだ、本当に愛してる。」どうせ最後の夜なんだから何でも言える。オーンは「本当?」と言って意味不明の微笑みを浮かべた。

 次の朝、10時45分発のTG132でチェンライへ向かうため我々はドンムアン空港へとやって来た。ヒアンの運転する車の中でオーンへの最後の言葉を考えていたのだがなかなか思い浮かばない。チェックインカウンターで3人の登場手続きをしようとしているとオーンが「ついでにこれもね。」と言ってチケットを取り出した。「どうせだから一緒にチェンライへ帰る。」我輩は一瞬頭の中が真っ白になった。「あっ、あの、オーンと一緒に飛行機乗れるのはうれしいんだけどチェンライの空港で妻の家族が待ってるんだよね、だから、そっ、その。」オーンは悪戯っぽい微笑みを満面に浮かべながら、市役所の腕に抱きつき「私、この人が買った女っていうことにしておけばいいでしょ。心配ないって、早く行こ。」我輩、頭は真っ白、顔は真っ青。タイ語のわからない市役所はうれしそうにウンウンとうなずいている。

 ひと晩を共に燃え上がった女とこうして一緒に飛行機旅行というのはなかなか感慨深いものがあったが我輩の心は複雑だった。とりあえずオーンとの別れが少し伸びたのは良かったが、もしオーンがノンブア村までついてきたらどうしよう、追い返すわけにもいかないし。オーンと当り障りない話をしているうちにチェンライに着いてしまった。タラップを降り、空港ビルに入る所で「さっきのは冗談、先に行って、家族に見られるとまずいでしょ。私はもう少しここにいて後から行くから、弟がバイクで迎えに来てるの。」別れは突然にやってきた。我輩はどうしていいかわからず、「とにかく後で携帯に電話入れるから。」とだけ言って、別れることにした。とにかくこの娘のやることはいつも我輩の心の急所を突く。

 チェンライ市内やメーサロン、メーサイ、チェンセーンを観光したり、近所の百姓たちと酒盛りしながら3日間を過した。2人の友人も1泊は我が家に泊まったのだがやはり夜遊びがしたいらしく残りの2泊はホテルに泊まることとなった。ウェンインにチェックインさせ、裏の風呂屋を教えておいた。こうしておけば心配ないだろう。我輩も覗いてみたが、、、、レベル低いな、やっぱし。それよりなにより最後にとんでもないことやらかしてくれたおかげでオーンのことが頭の中から離れない。いや、それだけではないだろう、もう会えないとなると切なさが込み上げてくる。情が移ってしまったのかな。

 3日が過ぎバンコクへ戻ることとなった。空港のレストランで2人の友人、妻の家族とビールを飲んでいるとしみじみとしたものがあった。この空港の目と鼻の先にオーンの家がある。それなのにもう会えない。そんな気持ちを振り払うように我輩は友人に、「この年になってもな、1日4人の女とヤレるんだよ。これからバンコクへ行ってそれを証明してみせるからな。」家族に別れを告げ、搭乗待合室へと移動した。するとそこには笑顔で手を振る一人の人物がいた。人間、一生のうちに心臓が飛び出るほど驚くということはそう何度もないだろうが、この時は正にそれだった。オーンが居るではないか。今度は完全に心臓が止まった。「ど、ど、どうしたの。」我輩は声にならない声を上げた。「驚いた?ごめんね、でも最初からこうするつもりだったの。やっぱりもう少しナタリーで働く、ヒアンに言ったらちょっとモーウェンをからかってやれって、この前の仕返しだって。怒ってる?」この後進国人どもめ先進国民をおちょくるでない。「あのさ、今日もこれからエメラルドに泊まるんだけどオーンは今日仕事?」「どうしよっかな?」だめだ、この娘には勝てない。「じゃあもう仕事でもいいから帰国まで一緒にいてくれる?」「エヘヘ、ナタリーのコンシアには来週いっぱいまで休むって言ってあるの。」何なんだよ。でも結局は最初から我輩と行動を共にする予定で帰省したのか、ということは我輩に好意をもってくれているのかな?ウッシッシ。

 飛行機は空いていたので窓際の席へ二人で座った。我輩の心の中ではまた今夜もオーンとあのめくるめくようなセックスができる喜びと風呂屋巡りが出来なくなった悲しみとが交錯していた。それにしてもこの娘にとって我輩は何なのだろうか?金を要求されたこともないし物もねだられたことがない。かといって単なる客という扱いでもない。恋人というには一切のやきもちもやいてこない。いつもごく自然にこうして我輩のそばにいる。オーンはじっと窓の外を見つめている、その表情からは心中は全く読み取れない。「オーンはいつも化粧はしないの?」話題がなくなったので何気なく聞いてみた。「だって初めて会った時モーウェンは化粧した女は嫌いだって言ってたでしょ。」そう言えばそんなこと言ったような気がする。考えてみればオーンは電話も含めて我輩と交わした会話は全て記憶している。それに会話にしても我輩のタイ語力がわかっていて我輩の知らない言葉は決して使わない。だからオーンとはいつでも何の障害もなく会話が出来る。もしかして物凄く聡明な女なのではないだろうか、そして我輩好みの女を演じ切っているのか?単に何にも考えてないだけかも知れないが。

 空港ではヒアンが待っていたので「ばかやろう。」と言って股間を思いきり握りしめてやった。「またオーンと会えてうれしいかい?」してやったりという顔をしながらヒアンが聞いてきた。オーンはヒアンと何かしゃべりながら大爆笑している、きっと我輩のことをエサにしているのだろう。エメラルドに落ち着くと2人の友人は「女、おんな、オンナ」と騒ぎ出す、休む間もなくミラージュへと出向いた。いつも思うのだがこの風呂屋は覗く度に女の質の良し悪しが極端だ。それとコンシアの態度が悪い、何かにつけてチップを要求してくる。友人2人とも女を選び1,900Bをカウンターで払うとお釣りの100Bをチップでよこせと言い出す始末。これだからナタリーのコンシアのようになじみになれないのだ。

友人とヒアンさえいなければもう4日もご無沙汰なので早くオーンとやりたいのだがしょうがない、夕食そして再び風呂屋巡りにつきあう。少し足を伸ばそうということでキャサリン、ジュリアナ、ヴィクトリアと回ったがもうひとつパッとしない。「ここしかない。」と思えば選んでしまうのであろうが、「他にもある。」と思うとつい「じゃあ、もう1軒覗いてみようか。」ということになってしまう。バンコク初心者を風俗へ連れて行くにはまずレベルの低い店から始めてレベルを上げて言ったほうがいいと思う。この逆をやるとこの日のようにいつまでたっても決まらなくなってしまう。オーンは「他の店ってタイ人のお客さんが多いわね、ナタリーって日本人ばっかり。」と言っていた。そうなのかな?結局はラチャダーへ戻りエマニュエルで友人2人は女を選び、「本日はこれにて打ち止め。」ということで我輩とオーンとヒアンはエメラルドに戻った。

 今回、我輩はスウィートルームを取っていた。ヒアンに値段交渉してもらっても3,500Bと高かったのだがしょうがない、ここならヒアンが酒を飲み始めて帰らなくてもベッドルームに引きこもり鍵をかけてしまえばいつでもオーンと二人きりになれる。3人で雑談を交わし11時になったので、「ヒアン、ゆっくり酒でも飲んでろ、何だったらここで寝ちゃってもいいから。おやすみ。」と言ってベッドルームに入ろうとしたらチャイムが鳴った。嫌な予感。市役所と不動産屋が戻ってきた。エマニュエルの女が納得いかないので、夜伽の女が欲しいと言い出した。もう勘弁してくれよ、これからナナやタニヤに行ったんじゃ時間が何時になるかわからない。スティサンの置屋へ行くとマイと顔が合っちゃうだろう、マズい。今でも時々ヒアンに電話をかけてきているのだ。レベルは低いけどロビンソンの向かいに連れ出し専門のカラオケがあったな、あそこでいいか。なんぞと考えているとオーンが突然口を挟んだ。「私が行っちゃまずいけど、ヒアンと友達2人でナタリーへ行って気に入った子の番号だけ覚えて来て。私が携帯に電話かけてここに呼び出すから。」突然何てコトを言い出すんだ。

 3人が戻って来ると、ヒアンは笑いをこらえながら、「不動産屋は6×番。市役所は1×9番。」1×9番?ジーンじゃないか、我輩とオーンは思わず顔を見合わせ、吹き出してしまった。12時きっかりに彼女たちはやって来た。オーンが一人でロビーまで迎えに行き、部屋に連れてくる、これでJF抜け見事に成功。2人の風俗嬢はさっそく相手の膝の上にちょこんと座りキッスのサービス、オーンも最初はこうだったな。ところがその後宴会が始まってしまい終わったのは午前3時、友人2人共ジーン達を気に入っていまい、明後日の帰国まで連れ回したいということになった。オーンが間に入り8,000Bということで話がついた。我輩は「風呂屋の女を連れ回すと高くつくぞ。」と忠告したのだが、「たかが2万円ちょっとだろ?安いもんだぜ。」これだから日本人はダメなのだ。別れ際、我輩は市役所に、「あの子のフェラ、最高だぞ。」と小声で囁いた。ヤバー三等兵、ゴメン。ヒアンはソファで寝てしまった。やっとオーンとやれる。

 コトが済んだ時には外は明るくなっていた。「友人達とは10時にここに来るよう約束したから9時に起きれば朝の一発が出来るな。」こうして眠りについたのだが目が覚めたのは部屋のチャイムでだった。「畜生、一発損した。」2人の友人は「最高、最高。」の連発だった。当たり前だろう、風呂屋の女をあれだけ酔っ払わせてやったんだから最高に決まってる。オーンが「シャワーだけでも浴びましょ、10分で済むから。」と言う。我輩は友人とヒアンに「10分待ってて。」と言ってオーンとシャワーを浴びることにした。「体洗ってもらったらやりたくなっちゃうな。でも時間ないよな。」そんな我輩の心を読んだのかオーンはバスタブで入念なフェラチオを始めた。職業柄かここのところ随分上手になった。我輩はあっというまに果ててしまった。本当に良く出来た女だ。

 すっきりした気分で遅い朝食となった。とうとう7人の大所帯になってしまった。食事をしながら「今日はどうする?」という話になり、エメラルド寺院も水上マーケットもつまらないので海を見に行こうということになった。実はオーンもジーンもまだ海を見たことがないのだ。「オーン、ところで僕はいくら?」冗談のつもりで聞いてみた。「モーウェンがお客と思うなら8,000B,恋人と思うならタダでいいよ、フフフ。」返答のしようがない。ジーンが「タダ、タダ」とチャチャを入れる。ヒアンのサニーでは乗り切れないので運転手付のワゴン車」を2,000Bで借り切り、海へと向かった。名前は忘れてしまったがパタヤの手前ですぐそばに水族館のある場所だ。

 「オーンは今度はいつまで働くつもり?」「家建てたでしょ、あっちも良くしようこっちも良くしようってやってたら予算オーバーしちゃった。それとチェンライでまた床屋に勤めようとしたんだけど特殊な腕がないと給料安いの、たった月給2,500B。だからこれからバンコクで美容学校に通う。ナタリーもバイト感覚で月に10日くらいかな。」「でもそんなんじゃコンシア怒るでしょ。」「ナタリーは月に20日以上出勤しないと500Bの罰金取られるの、でも罰金さえ払えば何日出勤しようが自由なの。6×番だって月に1週間くらいしか仕事してないよ。」そんな会話をしているうちにオーンは我輩の膝を枕に眠りについてしまった。彼女の髪の毛を撫でながら寝顔を見つめていると何とも心が開放される。日本で蓄積されたストレスが全て吹っ飛んでしまう。これぞ究極の健康法、だから外道はやめられない。

 海岸に到着し日本で言う「海の家」に落ち着いた。2組のカップルは早速いちゃつき始めたが我輩はオーンを誘って海辺へと出た。午後の強い日差しの中、海辺に佇む男女、なかなか絵になる光景である(但し男は50近いオヤジ)。オーンは初めて目にする海を見つめながら、「この海の向こうに日本があるのね。」と呟いた。方向としては逆なのだがそんなこといちいち指摘していては場がしらけてしまう、我輩はオーンの肩に手をやり、「そうだよ、僕と一緒に日本へ行こうか、ビザなら奥の手があるから。」と言うと、「嫌だ、日本にはモーウェンの奥さんと子供がいるでしょ。私、隠れてなくちゃならないもん。」この言葉は我輩の心に重くのしかかった。うかつなこと言っちゃったな。

 翌日の空港の入管前、今回は3組のカップルのディープキッス、質の高い観光客たちは、「とんでもない日本人どもだ。」と思っているだろう。しかし人の目を気にする人生なんてそれこそくだらないものである。市役所と不動産屋は何度も感謝の言葉を述べ、「もう日本で遊ぶのがバカらしくなった。金を貯めてまたタイに来る。」こうして質の低い観光客がまた2人誕生した。





第5章  2002年7月  LET’S SPEND THE NIGHT TOGETHER

 我輩にとって今までバンコクの風俗情報というとヒアンとヤバー三等兵からの口コミが全てであった。そして恥ずかしいことに我輩ほどバンコクの風俗情報に詳しい日本人はいないと思っていた。しかし先日、ヤボ用で八重洲へ行き、たまたま入った本屋でG−DIARYという雑誌を見つけた時、我輩の認識は一変した。何だこれは?我輩の知らないことまでたくさん載ってる。その中に「外道の細道はガセネタが多い。」という記述があった。「外道の細道」って何だろう?どうも最近はやりのインターネットていうやつらしい。我輩の診療所にもパソコンがあってインターネットというものが出来るようになっているらしいが、スタッフがガチャガチャやるだけで我輩はいじったことすらなかった。しかし「外道の細道」という言葉に何か怪しげなものを直感した我輩はスタッフにインターネットの基本だけ教えてもらい、このホームページを探して貰った。(フムフム、単語を入力し検索ボタンを押せばいいんだな、簡単じゃないか。)スタッフの女の子は「先生、何これ、エッチ!」「君は下がってよろしい。後は僕がやるから。」

 なるほど、これがホームページというやつか、なになに、ナタリーのページもあるじゃないか。よし、矢印を文字に合わせてこのマウスってやつの左ボタンを押せばいいんだな。へえ、すごい、この写真はナタリーの雛壇に間違いない。オーンの写真も載ってるぞ、それに情報も、○○○ガンマンさんからだ。「B×4番 19歳、、、」やっぱり年をごまかしているんだな。[作者注:この投稿は古いので今では削除されている。]このようにして外道の細道以外にもバンコク風俗に関するサイトを全て調べ尽くすのに3日とかからなかった。インターネットってすごい。あるナタリーに関するBBSには、「B×4番はちょっと誘えば誰にでもついて来る。」だって。ガクン。

 さて7月である。恒例の里帰りだ。チェンライからバンコクへ到着した我輩をオーンはもう当然のごとく迎えにきた。今回はちゃんと連絡しヒアンにも来て貰った。思えばもうオーンと知り合って1年になる。そして今回が4回目、今までも4回続けて買った女は何人もいたがこのように到着から帰国までずっと一緒というのは彼女が初めてだ。こうなってくると他の女をつまみ食いするわけにはいかなくなってくる。そしてずっと一緒だとどうしても会話がとぎれてしまうのだが、まあ今回は外道の細道で仕入れたナタリーネタがたくさんあるから会話には困らないだろう。それに最近ではオーンも月に10日位しか仕事に出てないのでこちらとしても、自分のために仕事を休んでもらってる、という切迫感がないので気が楽だ。

 今回バンコクに降り立ったメンバーは我輩とヤバー三等兵、それに妻の日本人の友人であるユカとその娘エリ9歳という布陣である。三等兵は当然ジーンを呼び出している。このままでは日本に帰って妻にバレてしまうので三等兵と熟考の上、ヒアンを三等兵の知人のソムポップ、ジーンをその妻、オーンをソムポップの家の使用人ということでユカに紹介した。妻もソムポップが三等兵の友人であることは知っているし、最近結婚したことも聞いていたので辻褄も合う。我輩はユカにヒアンとジーンを紹介し、「二人の顔をよく見てごらん、タイ人と違うでしょ、実は二人とも華僑なのさ。」と、華僑、華僑、を強調した。実際にヒアンは華僑だしジーンも雲南で似たようなものだ。続いてオーンを、「この子は家政婦なんだけど偶然にも実家はチェンライ何だって、ホラ、今日の飛行場の近くだよ。」全くのウソはすぐにバレてしまうがこのように半分真実を混ぜたウソはバレにくい。こうしておけばバッチリのはず、、、、、だった。

 オーンは与えられた役をソツなくこなしているのだが、ジーンは事情を良く飲み込めていないらしく三等兵にベッタリしている。「何か変だな。」ユカが呟く。これは絶対に確実なことであるがユカは妻から我輩のバンコクでの行動を監視するよう頼まれているはずだ。決してシッポはつかませないぞ、逆にこれをうまく乗り切れば今後の我輩の外道遊びもしやすくなる。定宿であるエメラルドにチェックインしユカ親子、我輩、三等兵と3室をとった。今回はヒアンを三等兵に押しつけちゃえばいいんだからスウィートにする必要はない。エレベーターを降りるとジーンは三等兵の部屋に入っていこうとする。ユカが「何で?何で?」と騒ぐので三等兵は「いや、あの、日本のおみやげを渡すだけ。」と言い訳をした。ユカは怪訝そうな顔をしながら自分達の部屋へ消えていった。どうもヤバいな、しょうがない、もしバレたら三等兵とジーンは前からできていたということにしてしまえ。我が身を守るためなら友達なんて関係ない。

 ユカのたっての希望でニセブランド品を買いに行くことになった。パッポン等でも売ってはいるが品揃えが充実しているのは何といってもパトナムだ。アジアホテルの裏の3階が駐車場になっている雑居ビル、まずこの1階のカバン屋に行く。ここで頼むと従業員が2階の洋品店に案内してくれる。ここはいつでも鍵がかかっているのだが通り抜けて裏のドアの奥の部屋にニセブランドが溢れている。B級コピーだがとにかく安い。ユカの買い物のつきあいは三等兵とヒアンにまかせて我輩とオーンとジーンはアジアホテルのカフェで待つことにした。

 我輩はジーンにもう少しうまく立ち回ってくれるように頼んだ。しかしジーンは少しふてくされたような顔をしながら、「あなたオーンのことどう思っているのよ?家政婦なんてかわいそうでしょ、あなた恋人でしょ。」えっ、恋人?オーンの顔を覗き込んだがそっぽを向いている。「もう、オーンは最近じゃいつもモーウェンの話ばかりしてるんだから。」この話はこれ以上掘り下げちゃヤバい、ジーンに「ところで前の男とは完全に切れたのかい?」と聞いてみた。オーンも話題をそらすかのように、「前のとは完全に別れたんだけど、この人もう新しい男作っちゃったのよ。懲りないんだから。」ジーンは前々から200万B貯まったら故郷へ帰って何か商売を始めたいと言っていた。それなのに男を作っちゃ金をせびり取られている。やはりこの仕事をやっていると寂しいんだろうな、オーンは大丈夫かな?

 ラチャダーへ戻りソンブーンレストランで夕食を取った。ここは安くていいのだが9才の子には口に合わなかったようだ、ホテルに帰ってからルームサービスでハンバーガーを頼んでやった。これでユカ親子は片付いた、まだ8時だしこれでヒアンを三等兵に押し付けてしまえばオーンとゆっくり、、、、ウッシッシ。雛壇から気に入った女を見つけてやるのもなかなか趣深いのだが、夜をゆったりと過すとなるとやはり気心の知れた相手のほうが気が楽だ。部屋に入り、「今日はごめんね。でもやっと二人きりになれたね。」と言って熱いディープキッスを交わしながらオーンの体をまさぐっていると、何とチャイムが鳴った。まさか?ああ、やっぱりヒアンだ。「三等兵は疲れたからもう寝るってさ。」さすがあちらの方が一枚上手、ヒアンを押し付けられてしまった。

 オーンが外へビールとつまみを買いに行き、いつものようにヒアンの酒の相手をすることになってしまった、あーあ。いつものように3人で歓談していたのだが今回はめずらしくオーンもビールを飲んでいる、昼間のストレスかな。「今は朝の9時から12時まで理容学校に通っているの。それにアパートの1階にある美容室も手伝っているから忙しくて、ナタリーには月に10日も行ってないな。でも家も建てちゃったし今はバンコクで生活していけるだけのお金があればいいからこれで充分。」オーンはこんなことを語り始めた。これはもし我輩が幾許かの定期的資金援助をすれば風俗から足を洗える、という意味にも取れる。我輩にとってもオーンは可愛くて可愛くてしょうがない、そんな女が見ず知らずの男に体を開いていることが心地よいわけがない。出来ればやめてくれるに越したことはない。しかしこのような資金援助が風俗嬢にとって何の意味もないことも我輩は経験上、心得ている。話題を変えよう。

  「最近インターネット始めたんだけどさ、ナタリーの事もいろいろ載ってるんだ。オーンは客に誘われると誰にでもついていくって書いてあったんだけど本当?」「ウフフフフ、知らない。」どうもそうらしいな。「でも最近は僕だけだよね、」「勿論そうよ。」ああ、やっぱり。でも仕事だもん、仕方ないよな。善意の解釈。「あと外道の細道に書いてあったんだけどA90番のオーちゃんって凄い人気だね、でも最近日本人に囲われてお店やめちゃったんだって?」「ウン、そうなの、日本人のお客さんのミヤノイになったの、オーは凄く喜んでた。私も日本人のミヤノイになりたいな、ウフフフフ。」まずいこと聞いちゃったな。「でっ、でも何て言っても人気NO.1はB56のビーちゃんだよね。」「そうなの、すごいの、前の日に次の日の予約が全部うまっちゃうこともあるくらいだもの。それで体がもたないんでAに変わるんだって。」

 午前1時になってようやくヒアンが帰った時には我輩もオーンもかなり酔っ払っていた。最近ではオーンと我輩は仕事抜きの普通の男女の関係になっていたのだがオーンは当然のように湯船にお湯を満たし支度を始める。長年身についた仕事の性なのだろう。これではやはり客と風俗嬢だ。しかしあのすご〜く気持ちの良いお風呂のサービスの誘惑には勝てず、素直に従うことにした。しかし風呂から上がるとオーンは風俗嬢のようにベッドの上でのサービスを続けることはせず我輩に完全に身を委ねてきた。お互いに酔っ払っていたためであろうかコンドームもつけずに本番に突入してしまった。薄れゆく意識の中に、「風俗嬢、生本番、性病、ヤバい。」と浮かんだのだがもう止まらない、どうにでもなれ。しかし絶頂感が襲ってきた時、オーンはさっと身をかわし口で我輩を受け止めた。何だ酔ってないじゃないか。しかしこれでピルを飲んでいないことはわかった、ということは客とも生ではやらせてない、とりあえず安心だ。

 帰りの飛行機の中でユカが、「これ女の直感なんだけどさ、ソムポップさんの奥さんがヤバーさんで家政婦が先生の女だったんじゃない?まあニセブランドのお店にも連れてってもらったし、奥さんには黙ってるけど。」返答のしようがなかった。





第6章   2002年11月   MISS YOU

 帰国してから我輩は完全に「外道の細道」にハマッてしまった。日本に居ながらも毎日のようにバンコク風俗の最新情報が手に入る、こんな痛快なことはない。我輩のようなアナログ人間にとっても、パソコンは素晴らしいおもちゃとなった。しかもオーンから裏取りしてもその情報はガセネタなどではなくほとんどが事実だった。我輩も率先して投稿しようと思ったのだがここ1年はずっとオーンだけだったので投稿するネタがない。しかたなく我輩の妻の半生を綴った「メーコック川に夕日が沈む時」という小説を外道紘氏に送ったのだが、見事これが採用となり連載の運びと相成った。

正直言って我輩はそれまで学術論文以外にまともな文章など書いたこともなかったのだが何故かこの「メーコック」は外道諸氏にも評判がよかったらしく励ましのメールも多数いただいた。我輩としてはいつもNeguro氏の文章と自分のそれを比較して自己嫌悪に陥っていたのだが何と紘氏から「今度バンコクで会いましょう。」というメールが届いた。よし、これは面白い、外道の細道なるトンデもないサイトを立ち上げた張本人がどんなツラしてるのか拝んでやろう。「外道平民ども!」とか「オレ〜、」「ハゲになりたきゃこれ読みな。」等の言葉使いからして何となくモロ体育会系のハゲ親父の顔が浮かんでいた。

 通年だと我輩は子供の学校の休みに合わせて3月、7月、12月と訪泰を繰り返していたのだがこれだとおよそ半年間、オーンに会えない。知恵を絞った結果、我輩が医師会旅行の幹事だったこともあり、秋の恒例の医師会旅行をバンコクにしてしまった。実はこれまでも医師会の友人を2人、3人とタイに連れてきては外道に落とし込んでいたのでこの案は全員一致で可決された。いままで医師会の買春旅行というと香港、韓国、台湾が定番だったのであるが誰もがタイ風俗嬢の質の良さと安さに驚いていた。ゴルフ場も素晴らしくしかも非常に安いというのだがゴルフをやらない我輩にはわからない。ロックを志す者、ゴルフと麻雀はやってはならないという掟があるのだ。とにかくこれならば妻に対しても堂々とした大義名分が出来た、めでたしめでたし。しかし妻からはお土産を持ってチェンライの実家に1泊する条件を出されてしまった。

 3泊4日の日程で1泊は実家に泊まらなければならないのでオーンとは2晩しか一緒にいられない。少しでもオーンと一緒にいたいので彼女に我輩とチェンライへ行ってくれるように頼んでみた。最初は嫌がったのだが4日間の買い切り、飛行機代も勿論我輩持ちということで押し切ってしまった。家を新築したこともありこうすれば結局はオーンも喜ぶだろうと勝手に思ってのことであるがこのことがとんでもない事態を引き起こすことになろうとはこの時は思いもしなかった。

 TG641で3時半にドンムアン空港に着いた。いつものようにヒアンとオーンを待たせてある。我輩は医師会の連中に見せつけるようにオーンを抱きしめ、ディープキッスを交わした。しかし今回の彼女はいつものような明るいオーンではなく何かおかしい。まあ気のせいかな。ある友人が「先生、未成年はヤバいんじゃない?」と声をかけてきた。初訪泰の人間にはスッピンのオーンはまだ未成年に見えるのだろうか?本当はもう24歳なのに。

 メンバー全員で夕食を取った後、早速我輩とヒアンとオーンで近所の風呂屋を案内した。初めての連中はビックリしている。今回はシーザーから始めてハイクラス、エマニュエルと回ったがさすがにオーンはナタリーには入ろうとしない、当たり前だよな、仕事サボッてるんだもん。先にオーンをホテルに返してナタリーを案内したところで全員女は決まった。これで我輩の役目は終わり、あとはヒアンを何とか早く追い返してオーンとやりたい。今回は日本からビーチマットとZローションも持ってきた、ホテルの風呂場がナタリー個室じゃあ。ところが部屋に帰るとオーンはヒアンのためにビールの大瓶をよりによって6本も用意していた。あじゃぱー、これでまたヒアンは帰らないよ。

 次の日は10時45分発のTG132へ搭乗するため二人で空港へ向かった。ヒアンは医師会の連中に付いてゴルフへと向かった。やはりオーンと二人だけというは最高である。搭乗手続きを済ませたのだが何かオーンの様子がおかしい、何かにおびえているような。まあいいや短い時間だけれど二人で飛行機旅行だ、これで3回目かな。シートベルトのサインが消え飲み物を待っているとスチュワーデスがやって来た。コーラに手を伸ばしふと顔が合った、うっ、ヤバい、妻と顔見知りのスチュワーデスだ。彼女はとなりに座っているオーンと言葉を交わし、そして我輩に視線を移し微笑んで、「サワディ チャオ」と挨拶をして去っていった。生きた心地がしなかった。「オーン、今何て聞かれたの?」「どういう関係ですかって聞くから恋人って答えたの。」ああ、もうダメだ、この世の終わりだ。顔面蒼白の我輩を覗き込み、「ハハハ、ウソよ、たまたま席がとなりでチェンライのこと話してたって答えたの。」本当に出来た女だ、でも意地悪だ。

 翌日、空港まで家族が見送りにくるのでオーンとは別々にチェックインして出発ロビーで待ち合わせをすることになった。しかし出発時間が迫っているのにオーンは現れない。どうしたんだろう?そうするうちにアナウンスで我輩の名前が呼ばれているのに気がついた。最初のタイ語のアナウンスではちょっと自信がなかったが続く英語のアナウンスでは、待ち人がいるのでカウンターを通って外に出ろと言っている。外へ出てみるとオーンが困り果てたような顔で待っていた、そして早口でしゃべり始めた。今まではオーンは我輩にもわかるようにゆっくりと簡単な単語だけを使って話してくれていたのだが、この時は気が動転していたためだろうか、タイ人相手と同じしゃべり方なのでよく聞き取れない。飛行機には乗れない、バスでバンコクへ行く、朝5時に着くからエメラルドで待っていてくれ、これだけはわかったのだが肝腎の飛行機に乗れない理由がわからない。とにかく時間がないのでヒアンに電話をかけさせ事情を説明させた。あとはバンコクでヒアンにゆっくり聞くことにして、とりあえず一人でTG133に乗り込んだ。

 たった1時間のフライトなのだが我輩はまるで狐につままれたような気持ちで座席に座っていた。すでにチケットは購入済みだった。家で何か事件が起こってまだ時間がかかるのかな?それなら夜のフライトを使えばもっと早く着くのに。それとも家族に金をせびられてチケットを払い戻ししちゃったのかな?それでバスで来るのかな?いや今回は「両親にベッドを買ってあげなさい。」ということで別に1万バーツ渡してある、金じゃないはずだ。そんなことを考えているうちにドンムアンに着いてしまった。

 空港で待っていたヒアンに挨拶もせずに、「何がどうなったんだよ?」ヒアンは「チャイ ジェン ジェン」と言いながら、「オーンは本当はコン プーカオだったんだ。オレも知らなかったけど。」「プーカオ?プーカオって何だ?僕知らないぞ。」ヒアンはイライラしながら手で波を書くようなしぐさをする。「ウーン、プーカオわからないか、えーと、あっそうだ、ドイならわかるだろ。」ドイならわかる、山の意味だ、コンは人間、「山人間」何だそれ?10秒経って突如頭にひらめいた。「コン プーカオ カウチャイ カウチャイ」そう「山岳民族」だ。そう思った瞬間にオーンのチェンライ人にしては濃い陰毛、そして垂れ気味のヒップが頭に浮かんだ。そしてナタリーの中国人やミャンマー人に対して面倒見が良かったのも理解できた。オーンはナタリーの外国人風俗嬢のお姉さん的存在でもあったのだ。

 「山岳民族はわかったけどそれと飛行機に乗れないのとどういう関係があるんだよ?」我輩は素朴な質問をヒアンにぶつけてみた。「ビンラディンの頃はそうでもなかったんだけど最近アフガンとかイラクとかで山岳民族を飛行機に乗せない時があるんだよ。」確かに山岳民族の中にテロリストが隠れているという噂は聞いたことがあるけど昨日は一緒に飛行機に乗れた。「それは日本人のモーウェンが一緒にチェックインしたから大丈夫だったんだよ。」ああ、本当にオーンに悪いことをしてしまった。だから最初からチェンライ行きを嫌がったし空港でキスした時もウツロだったんだ。そして自分が山岳民族だというハンディキャップを背負っているからこそ外国人風俗嬢に対してやさしかったんだ。オーンのことがますます好きになってしまった。

 ホテルに戻り一息ついてから外道紘氏に連絡をとった。氏の住まいがエメラルドからさほど遠くない所だったのでこちらから出向くことになった。デパートの前のオープンカフェで待ち合わせをすることとなった。ビールを飲みながらヒアンと待っているといよいよ外道紘氏が登場した。風貌はというと想像していたようなコテコテの体育会系ハゲ親父ではなくどちらかというと文科系の青年であった。初見ではあったがどうしても外道の細道のトンデモなさと目の前にいる青年の普通さとのバランスがとれない。我輩と初対面の挨拶を交わした後、紘氏はヒアンともタイ語で会話していたが我輩には聞き取れない、全くタイ人同士の会話だ。ヒアンは紘氏を評して、「タイ語のうまい日本人は何人か知っているけど、あれだけタイ語でジョークを連発する日本人は初めてだ。」と言っていた。

 やがて紘氏もビールとなりサイトの事やお互いの経歴のことなど色々と話合った。我輩はパソコンの全くの初心者だったのでネットの世界というものがよくわからず、外道の細道にも掲示板を設けて読者が自由に書き込めるようにしたらどうか、と提案したのだが彼はそれは絶対にダメだと言う。今になってみれば何故ダメなのか良くわかった。また我輩はイギリス命であり紘氏もかつてロンドンに住んでいたことがあったのでその方面の話でも盛り上がった。意気投合しこのまま居酒屋にでも行こうかという時にヒアンの電話が鳴った。医師会の連中が早くタニヤの「愛」へ連れて行けとうるさい。紘氏も誘ったのだが「愛は女を漁るにはいいけど、ゆっくり飲める場所じゃない。」ということで再会を約束し、今回はおさらばすることにした。

 愛には医者仲間4人を連れて行った、他のメンバーは既に女を貸しきりにしていたので今はもう部屋でいいコト始めているのだろう。我輩の経験から言ってもバンコクに連れてくると一人の女に執着しちゃう奴と、とにかくたくさんの女とやりたがる奴とはっきり二つに分かれる、性格なのかな?7時半に入ったのだが既にほとんどの女は連れ出され済みか予約済みだった。この日は日本では3連休の初日、思うのだが正月やお盆又は日本の連休にはタニヤに行かないほうがいいと思う、とにかく日本人が押しよせる。どうしてもタニヤに行きたいならかえって天使やタンタワンのようにゆっくり飲める店のほうがじっくりと女選びが出来ると思う。気に入った女は何人かいたがオーンの手前、部屋に女を連れ込むわけにはいかない。「女はいらない。」と言うと「じゃあこの子予約済みだから。」と言ってママが一人つけてくれた。

 「愛」から戻ってホテルについたのが午後10時だった。オーンは今バンコクへ向かうバスの中だろう、しかし到着まではまだまだ時間がある。ちょっと風呂屋で遊ぶくらいならバチが当たらないだろう。但しナタリーはまずい、後でオーンにバレる可能性がある。ミラージュ、シーザー、エマニュエル、ハイクラスと回ってみたがピンとくる女が見つからない。ちょっと足を伸ばしてポセイドンまで行こうかとしたのだが、ヒアンが「大丈夫、絶対バレないから、ナタリー、ナタリー。」というのでちょっと覗いてみることにした。そうすると、何故か必ずいるんだなあ、ナタリーには、我輩好みの女が。幸い我輩のなじみのコンシアはいなかった、ラッキーと思っていると近づいてきたのは、何とあの幸一だった。「インターネットの有名人」と声をかけると人差し指を口元に持っていき、「シー」と。やはりコンシア同士でもいがみあいがあるのだろう。我輩は幸一にA90を指名した、この番号はあのオーちゃんの番号じゃないか、しかしこの子はジアップという、我輩が気に入るだけあって、チェンライ出身であった。この子は外道士族的に言うと「ハズレ」で、何を話しかけても視線はテレビに釘付けという女であった。しかし我輩にとっては1年数ヶ月ぶりのオーン以外の女である、奥の手を使って無理やりその気にさせ2時間きっちりとやりまくった。ジアップの陥没乳首の巨乳をしゃぶっているとオーンの貧乳が頭に浮かんできた。人を差別するわけではないがやはり乳房は大きいに越したことはないな。

 ホテルに戻ったのは12時過ぎ、これから5時まで待たねばならない。オーンが部屋まで上がってこようとするとホテルのボーイに止められるに決まっている、5時前にフロントに下りてオーンを待っていよう。そうは思っていたのだが、さっきジアップと頑張り過ぎたためだろうか、ついウトウトと居眠りを始めてしまった。電話のベルで眼を覚ましたのは5時半だった。やはりオーンがボーイに呼び止められてフロントから電話をかけてきたのだった。我輩はあらかじめオーンと連名で部屋を取っていたのでフロントに行き、ボーイに我輩の部屋の宿泊者名を確かめさせ、「この子はチェンライまで僕のためにわざわざ荷物を取りに行ってくれたんだ。バカヤロウ。」と口からデマカセを言ってののしりボーイをキッと睨みつけた。そしておびえた顔のオーンを抱きかかえるようにしてエレベーターへと迎え入れた。オーンは我輩に抱きついてきた、我輩もオーンを抱きしめていた。

 部屋に戻るとオーンはイソイソとバスタブに湯を満たし始めた。我輩は「オーン、疲れているだろうし眠いでしょ、僕はいいから。」と言ったのだがオーンは我輩の股間に手を差し伸べ、「じゃあこれはなんなの?」さっきエレベーターの中で抱き合った時から我輩は勃起してしまっていた。しょうもない愚息め、でもオーンの顔にあの悪戯っぽい微笑みが戻っている、ひと安心だ。その後、激しく愛し合い気がついたら8時になっていた。「もう寝てもしょうがないね。」と微笑みかけるオーンに、「ヒアンから話は聞いたよ、コンプーカオだっけ。でもオーンはオーンでしょ、僕にはそんなこと関係ないよ。」これは本心だった。外道の目からみればバンコクで知り合った風俗嬢は全てタイ人だ、山岳もミャンマーも雲南もラオスも関係ない。アメリカ人の目から見たら我々も在日も日泰ハーフも部落も全て日本人であることと同じだ。問題は可愛いかブスか、ただそれだけ。「もし僕が独身だったらオーンと結婚して、そしたらそんな人種問題なんて関係なくなるのにね。」普段は風俗嬢に対して口からデマカセは何でもありの我輩であるがこの言葉も本心だった。「そうなのよ。」とオーンは語気を強めてうなづいた。心に熱いものが込み上げてきて、我輩はオーンを抱きしめていた。

 本当のことを言うと今回の旅行に来る前、オーンとはこれで最後にしようと何となく思っていた。外道の細道の正式なライターになったのだから一人の女にばかりかまっているわけにもいかない。それにオーンとはもう1年以上になるが最初から未来などないのだ、ここいらが潮時だろう、そういう思いでいたのだ。オーンと別れるのは簡単である、こちらから連絡さえ取らなければいい。しかしこんな事件が起こったため我輩の心は揺らいだ、もう少しオーンとつきあってみよう。別れ際に我輩は告白した。「ゴメン、オーン、昨日の夜ナタリーのA90とやっちゃった。」そしたら、「いいよ、そんなこと、私に関係ないもん。」だって。少しはやきもち焼いて欲しいのに。





第7章  2002年12月    PAINT IT BLACK

 今年ももうすぐ終わり、我輩も既に「メーコック」と「タイ人クラブ」を書き終え、前回訪泰時に紘氏に勧められた随筆「外道を生きる」を書き始めていた。紘氏の理想は外道の細道が読み物を中心とした投稿HPになることなのだ。そのために外道の細道に今までなかったエッセイをということなのだが、まあ文章はヘタでも内容が面白ければ何とかなるだろう。ただし何本かの原稿はボツになった。「外道を生きる」は我輩の長い外道人生の全てを文章にするつもりで始めたのだが、今になって読み返してみると結局そのほとんどがオーンに関する文章になってしまっていた。これではまずいと思ったのだが自問自答してみると我輩の心の中は既にオーンに支配されてしまっていて他の風俗嬢や妻との思い出等は忘れてしまっている。

 子供の冬休みに合わせた恒例の訪泰なのだが今回は希望するチケットが取れない。いつものように妻と子供とは仕事にかこつけて時間差で夜便で訪泰すれば行きの一泊もバンコクでオーンに会える。しかしあのバリ島テロ事件の影響で観光客がタイに集中してしまったらしくどうしても夜便が取れない、しかたなく今回は朝便でチェンライまでということになってしまった。だから一旦バンコクで入国し空港でオーンと待ち合わせをし、たった2時間のデートを楽しむこととなった。いつものようにスッピンで現れたオーンとまずは国内線に移動しチェンライへの搭乗手続きを済ませ空港のレストランに落ち着いた。しかし喫煙席はなくなっていた。

 「ゴメンね、本当はオーンと一緒にチェンライまで行きたいんだけどこの前みたいなことがあっちゃ嫌でしょ。ひどいよね、同じタイ人なのに差別があるなんて。」しかしオーンはつらそうな顔ひとつ見せず、いつもの微笑みを浮かべながら、「別に、生まれた時からこうだったもん、何とも無いよ。」「でも小さい時、学校とかでも差別うけなかったの?」「エヘヘ、学校へは行ってないの。」ああ、また悪いことを聞いてしまった。日本では大学を出ていても最低の人間性さえ持ちあわせていない人間が多いのに、この子のかもし出す高貴さは何だろう、まさか初等教育さえ受けてないとは思いもしなかった。我輩なんか医学部は6年なので計18年も学校に通ったのにこの年になっても単なる外道だぞ。

 オーンを空港まで送ってきたヒアンに500バーツ渡して我輩の子供をおもちゃを買いに連れて行くよう頼み、二人きりになったところで日本からのおみやげと5万円を渡した。これは我輩がバンコクに戻ってからの小遣いだ。オーンとは1日いくらというのではなく持ってる金はあらかじめ全部渡してしまって、金を使う時はオーンに支払わせるようにしている。そして帰国時に空港税を500B貰う、残った金はオーンのもの、こうしたほうが彼女に売春という仕事を意識させないで済む。我輩なりの配慮である。出発時間も近づいてきたのでキスをして別れようとしたらヒアンが子供を連れて帰ってきてしまった、バカヤロウ。ちなみに子供にはオーンをヒアンの妹と言ってある。

 4日後、チェンライからTG133でバンコクに戻った。空港ではオーンとヒアンが待っている、今回はひとりなのでオーンさえいればヒアンなどいらないのだが、こいつは無視するといじけるしかわいそうなので、まあタクシー代わりだ。それに今回は紘氏と飲みに行く約束になっているので待ち合わせ場所を決めるにもバンコクの地理に精通したヒアンがいた方が便利だろう。電話連絡を取りヒアンの車で紘氏のアパートの近くまで行き、彼を拾ってそのままスクンヴィットの居酒屋へ行くこととなった。初対面だったので我輩は紘氏にオーンを紹介した。「どっかで見たことあるなあ。」が紘氏の挨拶だった。そりゃそうだろう、自分のサイトに写真が載っているのだから。(但しナタリーは投稿が多いので現在では削除されています、あしからず。)

 実は居酒屋は我輩が紘氏にリクエストした。この時には既にバンコクの飲食店は全て禁煙になっていたので何とか喫煙の出来る店をと依頼したのだった。その結果がこの居酒屋、日本人相手の店で禁煙なんかにした日には経営が成り立たないだろう、ザマアミロ、タイの法律も日本人には通用しないのだ。但し灰皿はアルミホイールでできていた、もし警察の手入れがあったら握りつぶしてポケットに隠せという意味なのだろう。よろしい、それ位のことなら協力しましょう。我輩も紘氏もヘビースモーカーなのでこうでないとどうも落ち着かない。

 オーンがナタリーの風俗嬢と知り早速紘氏は取材を開始した。しかしBEEちゃんのことばかり聞いていたような気がする。何しろ紘氏とオーンが早口でしゃべるので我輩には何を言ってるのか聞き取れない。そのうち紘氏が「先生、実はタイでもスーパードライが飲めるんだよ。」と言って注文してくれた。運ばれてきたのは日本では見慣れない緑色の瓶なのだがラベルは正しくスーパードライだ。ちょっと飲んでみると、「うっ、まずい。」これはこの会社がまだ三流企業だった頃のアサヒビールの味だ。我輩の表情を見て紘氏は、「タイと日本では水が違うんだよ、硬水と軟水っていって、、、」と講釈を始め、「やっぱりまずいでしょ。」ってまずいとわかっているなら最初から勧めるな。

 今回はたっぷり時間があり酒を酌み交わしながら(しかしいいちこボトルが1,700Bは高いなあ)ゆっくりと歓談出来たので紘氏の人となりが理解出来た。「外道の細道」からは紘氏という人物の人となりは見えてこない、この人の本音が出ているのは「煩悩の夕暮れ」の編集後記である。我輩もこれを読むために煩夕を購読しているようなものだ。この人のサイトならこれからも連載を続けよう。

 紘氏をアパートの近くまで送り定宿であるエメラルドホテルへと帰った。オーンはまた隣の7−11でビールを買ってきてしまった、これで今日もヒアンは帰らない。オーンに、「紘さんはどうだった?」と聞くと、「私ね、紘さんに会ったら文句言おうと思ってたの。この前コンシアが日本人の客に私を勧めてくれたの、そしたらその客が私の番号を見て、B×4番、、、知ってる、知ってる、インターネットで見たよ、オッパイがないんでしょ、オレやだよ、だって。紘さんが私のこと貧乳だって言いふらしてるんでしょ。」「それ本当に紘さんに言ったの?」「ううん、モーウェンの友達でしょ、だから言わなかった。」「あのね、紘さんが言ってるんじゃなくて実際のオーンの客が投稿してきてるの、でも貧乳だけど性格もサービスもいいってちゃんと書いてあったよ。」「うーん、でもくやしい、こうなったらシリコン入れてやる。」「お願い、それだけはやめて。」シリコン巨乳よりは貧乳の方がいい。

 翌日、空港でTG640のチェックインをすると、、、またディレイだ、とにかくタイ航空はディレイが多すぎる。しかも今回は13時間遅れ、そしていつものように理由は言わない。しかしこれは成田も悪い、今時24時間使えない国際空港なんて世界の非常識である。住民の意思で夜間の離発着を認めないのならそれでいい、しかしそれならば羽田の国際線乗り入れを認めるのが筋だ。しかし千葉県民は国との約束を盾に絶対それを認めない、住民エゴはわかるが関東周辺住民の迷惑も少しは考えてほしい。成田問題で最も悪質なのは運輸省の役人と○○○○というナタリーのコンシアの名前の政治家だが、左翼の口車に乗った地主たちも配慮が足りなかった。こうなれば日本の国益を考えて国も住民ももっと柔軟な対応をして欲しい。それに空港への入場者全員への身分チェックなんてみっともないよ、タイだってそんなことやってないぞ。

 ヒアンは仕事があるということで帰った。オーンはあの悪戯っぽい微笑みを浮かべ、「もうお金ないんでしょ、どうするの?」我輩はふてくされたような顔をし、「タイインターでエアポートホテル取ってくれたからそこで待つよ。」「へへへ、飛行機が出るまで一緒にいるよ。食事とか不自由でしょ。」「えっ、でも今日は仕事に出るって言ってたでしょ。」「いいよ、ナタリーサボっちゃうから。」実際にオケラだったしこの時ほどオーンのことをありがたいと思ったこともなかった。恋人づき合いしているとは言ってもしょせんは客と風俗嬢、オケラの我輩と一緒にいても金にならないどころか逆に散財してしまう。風俗嬢のこういった気遣いには素直に感謝し受け止めてあげなければならない。またオーンと別れづらくなってしまった。

 エアポートホテルにチェックインし、まず我輩の診療所に国際電話を入れ明日の診療の代診を頼んだ。「シャワー浴びるでしょ。」と言って早速オーンはバスタブにお湯を満たし始める。「ウッ、またまたオーンとヤれる。」ディレイで明日の仕事も半日休まなくてはならなくなってしまったのだが何か得した気分。つい3時間前、エメラルドホテルで2発ヤったばかりなのにオーンが相手だと何発でも出来てしまう。やはり愛あるセックスは素晴らしい。

 コトを終えてその余韻を楽しんでいると、我輩の腕の中のオーンが、「ねえ、ボーリング行こうか?私、結構上手なんだ。」と言い出した。考えてみればいつもヒアンや友人が一緒で、オーンと二人きりで一日を過せるのはこれが初めてなのだ。恋人気分でボーリングを楽しもう。上手だ、と言ったわりにはオーンのスコアは100だった、ちなみに我輩は80。簡単に昼食を済ませホテルには2時に着いた。部屋でオーンを抱きしめキスをすると、、、またまた勃起してしまう。「12月なのに外は暑かったね。」と話をふると、「ウフフ、またシャワーしたいんでしょう。」本当に話のわかるいい子だ。それにしても我輩の体はどうなってしまったのだろう、オーンといると我輩の精嚢フル回転、まるで20代に戻ったようだ。

 夕食もタイ航空から支給されているのだがここのレストランでは煙草が吸えない。そこでホテルの前の屋台へ行くことになった。この屋台、道路際に簡単な屋根をしつらえた店である。道路の向かい側は空港なのでみなさん御存知でしょ。席に着くと店のおばさんが、「旦那さんは日本人だろ、これから二人で日本に帰るのかい?」とオーンに声をかけてきた。オーンは「ええ、そうなの、でも飛行機が13時間も遅れちゃって、ここで待ってるの。」とウソをついた。「いいじゃないか半日くらい、日本に行けばお金がいっぱい稼げるんだろ。」とおばさん。オーンにはこの言葉をウソではなく本当にしてあげたい。僕の回りには40過ぎても結婚できずにチョンガーでいる奴がウジャウジャいる。誰かにオーンを押し付けちゃおうかな。

 7時に部屋に戻り空港へ戻る12時までまたまたオーンとセックスタイム、さすがに勃起はするのだが発射は出来ない。挿入を繰り返すが発射しない我輩に気づいたオーンは最後に強引に手と口で発射させてくれた。こんな嫁さんが欲しい、やっぱりオーンとは別れられないよな。午前1時発の深夜便、真っ黒に塗りつぶされた窓の外には微笑むオーンの顔がはっきりと浮かんでいた、そして我輩はいつまでもそれを見続けていた。





第8章   2003年3月   AS TEARS GO BY

 人は誰も生きていくにあたって「逆境こそチャンスと思え。」とか「石の上にも3年」等というような座右の銘というか人生訓を持っている。我輩で言えば、「弱い者は助けろ、強い者には従うな。常識は信じるな、信念は曲げるな。」というシャーロックホームズから得た人生訓があるのだが、これはまだ純真だった小学生の頃に得たものである。心が歪んでしまってから得た人生訓は「女の賞味期限は25歳まで。」

 2003年1月3日、オーンの25歳の誕生日である。我輩は国際電話でバースデイコールを入れた。「信じられないの、あっと言う間に25になっちゃった。どうせ風俗やるならもっと若くから始めれば良かった。私なんかまだ2年なのにナタリーの女の子達からはピー(お姉さん)って呼ばれてるんだから。」「でもちゃんと両親のために家を新築できたんだから良かったじゃないか。」「そうね、風俗やってること近所にバレちゃったけどね。」ああ、そうか、だから最初は建売を買って引っ越そうとしたのか。うかつなアドバイスしちゃったかな。オーンのバンコクでの美容学校ももうすぐ終わる。そしたらオーンもチェンライに帰って美容室勤めを始めるだろうから我々の関係も終わるだろう。そろそろ潮時だよな、もう25歳だし。しかしそうは思ってもなかなか断ち切れない、我輩にとってオーンは今やナタリーの風俗嬢とは別の存在になっていた。でも次で最後にしよう。

 さてまたまた訪泰である、今回は昨年、我輩の友人と結婚した妻の妹の結婚式をするのがメインエベントだ。これは絶対の確信を持って言えることだが現在、タイ百性の娘でタイ百姓との結婚を望んでいる女は一人もいない。誰もが百性と結婚するぐらいなら一生独身でいたほうがマシだと考えている。妻の妹も30歳になるのに結婚しようとしないので我輩の行きつけの居酒屋のマスター(独身、45歳)を紹介したのだが、妹は顔も見ずにOKした。マスターは最初はぐずったのだが、「まだバージンだぞ。」を連発したらしぶしぶ承諾し結婚の運びと相成った。

 妻と妹、それに子供を先に訪泰させ我輩とマスターは仕事にかこつけ後から夜便で訪泰した。「類は友を呼ぶ」というがこのマスターもバンコクで女を抱きたいという。我輩の義兄弟としては100点満点。オーンにマスターの好みである「セクシー系」を頼んでおいたら今回はキャサリンの女の子を用意していた。いつも思うのだがこちらに気を使ってかオーンはいつも、国籍は怪しいが、上玉を用意してくれる。これなら我輩も鼻が高い。

 次の朝、オーンをバンコクに残しチェンライへ飛んだのだがこの時の状況は「外道を生きる」の「ノンブア村結婚式顛末記」を参照していただきたい。こうして3日後、我輩は妻と子供を、マスターは結婚式最中の新婦をチェンライに残し、オーンの待つバンコクへ戻った。マスターはこの前の女の子と正式に風呂でやりたいということでまずキャサリンへと向かった。我輩とオーンは2時間の間、上のVIPルームで待つこととなった。オーンが「モーウェンも気に入った子見つけて入ってくれば。」と言ったがその手にはのるものか。そうしたい気持ちも充分にあったがその後が怖い。

 VIPルームに日本人のオヤジとタイ人のオーンが女を選ぶでもなく座っているのを不思議に思ったのかコンシアが話しかけてきた。タイ人同士の会話なのでよくわからなかったが、オーンはキャサリンの女をマスターに紹介したこと以外は本当のことをしゃべっていたようだ。コンシアが片言の日本語で「ウラヤマシイネエ、アイジンニシナサイヨ。」と言ってきたのだが笑ってごまかすと、今度はオーンをキャサリンにスカウトし始めた。

 コンシアが去った後、我輩はいよいよ本題を切り出した。「オーン、美容学校も卒業でしょ、これでお別れかな?」「別に、あなたから連絡がなければ私も逢えないんだから別れる別れないはモーウェンの自由でしょ。」だめだ、やっぱりこの子には勝てない。「じゃあ、仕事やめても僕が連絡すればバンコクまで逢いに来てくれる?」「ウフフ、チェンライじゃ奥さんの目もあって逢えないもんね。」この子には絶対勝てない。「わかった、往復の飛行機代僕が出すからこれからもよろしくお願いします。」何を言っているんだ、我輩は。「実はね、美容学校は終わったんだけど私って学校通った事なかったでしょ、学校が楽しくなっちゃった。今度は英語とパソコンの学校に通おうと思うの、だからナタリーのバイトももう1年だけ続けてみる。」ガチョン。

 何か1年前と同じ展開だな、しかも最初にこちらの本音を全部しゃべらされて、というのも同じ。我ながら進歩のない人間だと思う。しかしこれでまだしばらくはオーンに逢える、何故かホッとした。訪泰する前は、「これが最後。」と思っていたのだが実際に逢ってしまうと愛しい気持ちが抑えられなくなってしまう。もう擬似恋愛の域を越えてしまったかな?我輩は気に入らない女とは絶対にやらない、そんなことするならセンズリこいてた方がマシだ。気に入った女でも1回やればご馳走様、かなり気に入った女でも3回ヤルと飽きてしまう。しかしオーンは特別で何回やっても飽きるどころか愛しさが心に蓄積されてゆく。

 次の日、今回も紘氏と会い、この前の居酒屋へ行った。今回は堂々と灰皿が置かれている。紘氏にはヒロポン軍曹を紹介してくれるよう頼んでおいたのだが、仕事が忙しいらしく会うことが出来なかった。そのかわりに紘氏は友人であるS君を我輩に紹介した。彼はこれからタイ女性と結婚するのでビザ等のことで力になってやって欲しいとのこと。しかもその彼女の出身地を聞いてみるとメーチャンとのことなのでオーンも興味を持ってS君の話を聞いていた。マスターも我輩の義妹のビザを取るまでの苦労話を得意げに話し始め、場は盛り上がったのだが、バカヤロウ、我輩が全部やってやったんじゃないか。紘氏は話に入って来れず、「俺には関係ない。」という顔をしてシラけていた。

 マスターに今夜の女をあてがわなければならない。日本語のしゃべれる女の方がいいだろう、タニヤに行くことにし「愛」と思ったのだがあそこの女じゃ部屋に来てもすぐに帰ってしまう。そうだ、目の前にいるのは紘氏ではないか、以前から気になっていたタンタワン(現在たんぽぽ)へ行って見よう。外道の細道の広告主なのだから紘氏に頼めば話が早い。皆でタンタワンに乗り込むことになった。

 愛に比べて女の数は、規模がちがうのだから、勿論少ないが粒はかなり揃っている、北部出身ばかりだ、これは選びがいがある。ひとりひとり吟味していったらオーンと目が合ってしまった、ちょっと怒った顔をしている。オーンに気を取られているうちにマスターは一人の女に飛びついていた、とびきりの上玉○○ちゃんだ。畜生、我輩も頑張って選ばないと、、、、てオーンがいるんだもの、選べるわけないじゃないか。紘氏の選んだ女を見て、この男の趣味はだいたいわかった。

 マスターは上機嫌でカラオケを歌い始めた。紘氏は会話で女を笑わせている、おい、紘、ここはタニヤだぞ、タイ語は反則だぞ。オーンはというと我輩の手を握って離さない、明らかにタンタワンの女達にライバル心を燃やしてる。これはいいぞ、今夜が楽しみだぞ。「私びっくりしちゃった、ナタリーしか知らないから、こんなとこもあるんだ。」「そうだよ、こうして仲良くなってお客とホテルへ行くんだ。」「じゃあお客さんは1日ひとりだけ?」「まあ人気のある子は2人くらいこなすこともあるかもしれないけど大体はひとりかゼロかだな。どうだい、オーンもここで働いてみる?」「私には向いてないと思う、ナタリーでいいや。」

 2時間程して客も一杯になった、そろそろ帰ろう。マスターは○○ちゃんを連れ出そうとするのだが何故か揉めている。紘氏が素っ頓狂な声で、「ゴメン、先生、忘れてた、あの子だけオフ不可だったんだ。」おい!紘!でもそうだよなあれだけの上玉だもの、通いつめて落とすしかないよな、駐在さんはいいよな。結局マスターにはオーンがナタリーの子を呼んであてがうことになった。来たのは、、、あのジーンだった。我輩はマスターに、「気を落とさないで、そのかわりこの子のフェラは保証付きだから。」と言って部屋へ返した。

 「マスターもS君もタイ人と結婚したし、オーンも日本人と結婚したい?」「どんな人と?」「僕、って言いたいけどそれは無理だから、例えばナタリーへ来る日本人のお客さんとか。」「そして私が日本へ行ったら?」「勿論、オーンと逢いたいな。」「嫌だよ、ここはタイだからいいけど日本へ行ってもモーウェンの奥さんの影に隠れているのはマイ サヌックよ。」うかつだった、去年も海辺で同じ事聞いちゃったんだよな。

 我輩は部屋に備え付けの便箋を細く切って表側に線を引き、表裏逆に貼り付けて「わっか」を作った。「オーンは影に隠れるのはやだって言ったけど、僕にとってはこの線を引いた表が家庭、何も書いてない裏がオーンなんだ。でもホラ、この表をたどっていくといつのまにか裏になったでしょ、そしてまた表に戻る。これはメビウスの輪って言うんだけど、2年前オーンに逢ってから僕はこの輪の中に入っちゃったんだ。わかる?」何気なくやった行為だったが、考えてみると我ながら名言だと思った。オーンはしきりに感心して、「へえ、すごい、表と裏がつながっちゃってる。これどうやって作ったの?ああそうか、ひねって貼ればいいのか、面白いね、でも2回ひねったらどうなるのかな?」あのさあ、わっかばかりいじってないで我輩の話も少しは聞いてよ。

 もう2年近いつき合いになるのでオーンの性格は把握していた。要するに何に対しても自然体なのだ。山岳民族としての差別を受けていてもそれに不満を感じるでもなく素直に受け入れている。我輩に対しても、「来る者は拒まず、去る者は追わず。」という態度で金品を始めとして我輩には一切何も要求しない。最初の出会いの時だけは営業のような態度をとったがその後はそのようなそぶりも見せない。我輩の差し出す金は多いにせよ少ないにせよ素直に受け取り、不満は言わない。我輩を信じてはいるが愛しているわけではない、態度を見ればわかる。そりゃそうだろう、我輩はオーンの母親よりも年上でしかも妻子持ちなのだ。しかし我輩の要求には全て答えてくれる。

 我輩の帰国に合わせてオーンもチェンライへと帰って行った。もうすぐソンカーンである。今回は美容学校も終わったので1ヶ月くらい田舎でゆっくりするという。欲のない娘だ。そして続いて例のSARS騒ぎである。とりあえずバンコクには行かず様子を見ることにしたらしい、結局上京するのは6月になってしまった。バンコクに帰ったオーンに電話を入れてみると意外な言葉が返ってきた。「今アパートの1階の美容室で働かせてもらっているの。私ねえ、ナタリーをクビになっちゃった。」

お詫び:第5章で「アジアホテル」と書いたのは「インドラエージェントホテル」の間違いでした。(老人性痴呆症が進行中のDr.フェラあり)

 










第9章   2003年7月    TELL ME

 それは突然やって来た。オーンがナタリーをクビになった?長期欠勤が原因なのだろうか?そんなはずはない、以前オーンにも聞いたが月に500バーツさえ払えばたとえ仕事に出なくても在籍できるはずだ。山岳民族だからか?いやナタリーには中国人もミャンマー人もたくさんいる、山岳ならとりあえずタイ人なのだからまだマシな方だ。オーンの口からは驚愕の事実が明かされた。「ナタリーに顔を出したらコンシアに呼ばれたの。そしてね、お前のことが最近、外道の細道に載った、サービスは悪いし最悪の女だって書いてあった、お前を置いておくと日本人の客が来なくなるからナタリーをやめろ、って言われたの。ねえモーウェンがやったの?それとも紘さん?」「僕も紘さんもそんな事するわけないだろ。」

 我輩は外道の細道も煩悩の夕暮れ(煩夕)も毎日チェックしている。オーンについての投稿は去年も今年もひとつもない。それどころか最近ではナタリーの風俗嬢に関する否定的な投稿もないのだ。念のためバンコク風俗に関するありとあらゆるサイトを調べてみたがそんなものは見当たらなかった。そりゃそうだろう、ここのところずっとオーンは月に7日程度しか仕事に出ていなかったのだから日本人の目に止まるわけがない。そうなるとまず考えられるのがストーカーがコンシアに告げ口したという事。「オーン、最近しつこくつきまとってる日本人っている?」「モーウェン。」「違うよ、僕以外にだよ。」「知ってるでしょ、私がつき合っているのはあなただけでしょ。」

 もうひとつ考えられるのはナタリー側にオーンをクビにしなければならない理由があり、コンシアが外道の細道を利用したという事だ。我輩は紘氏にメールを送り、オーンの携帯番号を教えて彼女と話し合ってもらうよう頼んだ。もしかしたら我輩に聞き違いがあったかもしれないし、そうでなかったら紘氏の口からオーンの我輩と紘氏に対する誤解を解いてもらいたかったからだ。まもなく紘氏からメールが届いたがやはり我輩の聞き間違いではなかった。この詳細については外道を生きるの「さよならナタリー」を参照していただきたい。

 そしてもうひとつ問題が起こった、紘氏の入院騒ぎである。何のことはないタイではよく見かけるウィルス性疾患なのだがあの不精な性格の紘氏がほっぽらかしにしたため悪化させてしまったのだ。理由を聞くと、「病気は根性で治す。」バカだよな。いつまでも入院しているわけにはいかない紘氏は途中で病院を逃げ出してしまい我輩に助けを求めて来た。友人の皮膚科医に相談に行き、紘氏の病名と現状を話すとその医師は、「エッ、バンコク?その人本当はカポシ肉腫(つまりエイズ)なんじゃない?」この世には紘氏に死んで欲しいと思っている人間が多数存在するようだ。我輩は紘氏に疾患部分の写真をメールで送ってもらい再びそれを皮膚科医に見せに行き、病名に間違いの無いことを確かめ、抗生物質と抗ウィルス軟膏を処方してもらった。これを持っての訪泰である。

 さて困った、今回は日程の関係でどうしても家族一緒にバンコクに向かわねばならない。これでは行きにオーンには逢えない。とりあえずオーンにはチェンライに帰っていてもらい、チェンライからバンコクへ向かう飛行機に同乗してもらうことにした。この頃には再び山岳民族でも搭乗できるようになっていた。夜便でバンコクに到着し妻の定宿であるサパンクワイのリバティホテルに泊まることにした。ラチャダーを知らない妻をエメラルドに連れて行き近所の風景を見せるのはヤバい。紘氏にはリバティまで薬を取りに来てもらった。我輩も紘氏に頼みたいことがあった。日本から密かに持ち込んだオーンへのおみやげと前回で穴が開いてしまっため持ってきた新しいビーチマットとゼットローションを紘氏に預かってもらいたかったのだ。こんなものチェンライまで持っていって妻に見つかった日には生きて日本に帰れない。

 「紘さんへのおみやげ。」ということにしてブツと薬を渡したあと、「メーコックのノイです。」と言って妻を紘氏に紹介した。さっそく妻とタイ語で会話を始めたのだが妻は終始笑いっぱなし。「あの人本当に病気なの?」紘氏が帰った後、妻は我輩に聞いてきた。

 帰りのチェンライ空港ではいつものように搭乗口でオーンと待ち合わせをした。風俗をやめたせいか表情が大分おだやかになっていた。そうだよ、この顔だよ、2年前にナタリーで初めて会った時の顔だった。目の前にいるのはもはや風俗嬢のオーンではない、普通の娘だ、そう思うだけで我輩の下半身には熱いものが込み上げてきてしまった。「紘さんから電話あったでしょ、わかった?コンシアがうそついたんだよ。」「そうね、私以外にもクビになった子がいるしジーンも出勤停止で自宅待機させられているの。」例のデービス事件を知るまで、我輩には何が起こっているのかわからなかった。

 搭乗後、まず我輩はスチュワーデスの顔をひとりひとりチェックした。よし大丈夫だ、我輩と妻の顔見知りはいない。別々にチェックインしたので当然座席も別々である、我輩はオーンを空いている後ろの席に誘い窓側のAとBに座った。「オーン、これからどうするの?MPで働くんだったら紘さんに頼んでどっか紹介してもらうけど。それとも本格的にバンコクで美容師やってみる?」「チェンライへ帰る。風俗はもう嫌だしバンコクじゃ美容師やってもアパート代や食事代考えるとやっていけない。チェンライなら給料は安いけど、アパートも外食もいらないでしょ。バンコクへ行ったらピックアップ雇ってアパート引き払って荷物を持ってチェンライに帰る、この2年間でベッドとか化粧台とかいろいろ荷物が貯まっちゃったんだ。」

 「金くらい僕が送るからバンコクにいなよ、パソコンや英会話習いたいんでしょ。」出かかったこの言葉をグッと飲み込んだ。これは禁じ手だ、若い娘がバンコクで裕福な暮らしをしていたらタイの男に喰いつかれないわけがない。ここいらあたりのタイ男の才能をバカにしてはいけない、日本人などとてもじゃないがかなわない。こうして金が日本男からタイ女へ、そしてタイ男へという食物連鎖を今まで日本でもタイでもいやというほど見せつけられてきた。こうなると日本人男は全くのバカだしタイ女も結局は不幸になる。まるで日本政府のODAだ。

 エメラルドにチェックインしビールを一杯やったら何故か眠くなってきてしまった。紘氏と約束をしていたのだが今日はかったるい、明日にしよう。適当な理由を考えて紘氏に電話を入れた。「オレはいつでもかまわないけど、先生、お風呂セットはどうするの?」そうだ、忘れてた、紘氏にビーチマットとローションを預けたままだった。「うん、いやいや、大した用事じゃないからやっぱり今日飲もうか、ヒアンの車で迎えに行くからちょっと待ってて。」オーンと過せる夜はたった2晩、マットはかかせない。こうして今回も紘氏と飲むことになった。

 いつもの居酒屋へ行こうとしたのだが紘氏は床に座るとまだ痛みが来るというので椅子席のある居酒屋にしようということになった。こうして紘氏に新しい居酒屋に案内してもらったのだが何と椅子席は既に満席で結局座敷になってしまった。普段の行いがこういう時に結果となって現れるのであろう、紘氏はしかたなく4枚重ねの座布団の上に腰を浮かせるように座った。話題は必然的にオーンのクビ事件になった。この時、あのデービス事件は水面下で進行中で表には出ていなかったので我輩も紘氏も理由がわからず、紘氏は「ナタリーもいろいろあるみたいだからね、最近じゃあのビーちゃんさえコンシアにうとまれて干されているっていう噂だからね。」と言ってオーンをなぐさめてくれた。

 紘氏は薬のお礼として我輩にチェ ゲバラのTシャツを買っておいてくれた。しかしそこはあの紘氏である、アパートに忘れてきたらしい。「明日また会うか、都合が悪けりゃホテルまで持っていってやるよ。」と言ってくれたのだが紘氏の現在の体調を考えれば少しでも安静にさせておいた方がいい、我輩は「いいよ、紘さん、ゆっくりしなよ、明日にでもヒアンに取りに行かせるから、」と言って別れた。しかし次の日、病状を気にして電話を入れてみると、「今オレ、ナナにいるんだ。今日はミス
 ナナプラザのコンテストの日でさ、見物に来てるんだよ。先生も来るかい?」もう、この男にあわれみをかけるのはやめよう。

 「もうこれでオーンはチェンライへ帰っちゃうでしょ。今度は10月に医師会旅行でバンコクに来るんだけど、その時はまたオーンもバンコクまで出てきてくれる?」「うん、いいよ、モーウェンの予定がわかれば何日か前にバンコクに出てくる。ジーンのアパートに泊まるから大丈夫よ。田舎には友達がいないからつまらなくて。」そうだよな、オーンは学校へ行っていないから友達も少ないだろう、それに近所の若い奴だって皆働きに出ちゃっているだろうからチェンライには友達なんていないだろうな。最近では日本から電話を入れてもなかなか切ろうとしない、話し相手もなかなか見つからないのかもしれないな。

 いつものように冷蔵庫のビールをカラにして、やっとヒアンが帰った。素人に戻ったオーンにマットサービスを頼むのはかなり気が引けた、それを言い出せずにトイレへ行きふと化粧台を見ると、見慣れた形のボトル、何とオーンは前回使い残したゼットローションをちゃんととっていて今回わざわざチェンライから持って来てくれたのだ。こういう気が利くことががオーンの素晴らしいところなのだ。我輩の妻とは正反対である。向こうがその気なら躊躇することはない、紘氏から受け取ったビーチマットを取り出し、「ホラ、新しいやつ持って来たよ、前のより大きいからやりやすいと思う。」本当にどうしようもないスケベだよな、我輩は。

 今回のオーンの反応は素晴らしかった。長い間、男から遠ざかっていたためであろうか、向こうからこちらを積極的に求めてきているのが手に取るよでうにわかる。今までのようにそこはかとなく高貴さをただよわせたセックスではなく完全に雌犬と化していた。生で挿入しても今までのように外出しや口出しされることなくキッチリと我輩の精を受け入れた。ピルも飲まずに受け入れるということは、これから先は完全に身も心も完全に我輩に委ねるということだ、と我輩は解釈した。うれしくもあり恐怖でもあった。「子供が出来ちゃったかもしれないね。」我輩の腕の中でグッタリしているオーンに、どんな答えが返ってくるのか期待しながら聞いてみた。「えっ、だってこの前モーウェンが、生理の後の10日間は絶対安全だって教えてくれたでしょ。」やっぱりオーンは賢いや。

 いつものように我輩の腕の中で眠りについたオーンの寝顔を見ながら考えた。「このままじゃオーンと別れられそうにない。だけれどもオーンはもう風俗嬢じゃないんだからこちらの態度もはっきりしないと可哀想だ。今までのように都合の悪い時に客のフリをするわけにもいかない。しかしオーンをミヤノイに出来ない決定的な理由がある、オーンの実家と妻の実家は車で20分の距離なのだ。噂好きのチェンライの田舎のことである、いつかはきっとバレる。やっぱり別れるしかないだろう。そうだ、「外道を生きる」を中断してオーンとの物語を書いてみよう。そして次回の10月を最終章にして別れて終わることにしよう。そうすれば僕も別れざるを得なくなるだろう。そうだ、そうしよう。





第10章   2003年10月    SYMPATHY FOR THE DEVIL

 今年の秋も医師会旅行はバンコクということになった。しかも今年は去年のような希望者のみの個人参加というものではなく会としての正式な旅行となった。我輩が幹事となり旅行会社と折衝したのだが飛行機代が8万2千円、エメラルドホテルがスタンダードで1泊1万、市内観光がおみやげ店を2軒回る条件で1人8千円。ふざけるんじゃねえバカヤロウ、我輩を誰だと心得る、タイの豚肉100gの値段まで知っている通だぞ、こんな条件で納得するか。ということで全て自分で手配することにした。ヒアンの助けを借り、エメラルドは奥の棟のデラックスルームにMr.&Mrs.名義(つまりJFはなし)に朝食付き(但し2人分になってしまう)で2,200B、大型観光バスを1日5,500Bで借り切った。そして飛行機代は会負担、これなら水上マーケット1人100Bとかワットプラケオ入場料200Bとか払っても大分安くつく、医師会諸君、浮いた金で外道に励みなさい。

 さて、「メビウスの輪」を書き始めた時に決心したこと、今回でオーンと別れ普通の外道に戻る、これを実行しなければならない。何を言えば良いかは大体構想は固まった。あとは実行あるのみ、オーンがかつて口にしたこと、つまりこちらからの連絡を絶てば簡単に別れることができるのだが、愛する相手、そして親子ほども年の違う娘にそんな不粋なマネはしたくない。これは我輩の外道としての美学でもある。将来、我輩が住みつくであろうチェンライの町でバッタリ出会っても、「ひさしぶり、元気にしてる?」と声をかけられる関係は保っておきたい。

 オーンには7月に今回のチェンライーバンコクの往復飛行機代として5,000Bを別に渡しておいたのだが、結局はバスで上京した。風俗をやめてから大分倹約家になったようだ。オーンの両親には会ったことはないがこれは確かに言える、両親はいい人だ。現在オーンの家で金を稼いでいたのはオーンだけだった。親が娘の収入に依存していると娘はやめたくても風俗をやめることが出来ない。こんな悲劇は今まで腐るほど見てきた。この両親は、小作農だと言っていたが、娘に頼ることなく自立して生きているのだ。もしタイ女性と結婚するならこういう家族を選ぶべきである、間違っても親に依存されている娘を貰ってはいけない。家族の面倒を全部見ることになっちゃうぞ。

 空港ではヒアンとオーンが待っていたのだが今回はいつもと勝手が違う、メンバー達はオーンやヒアンを現地ガイドと勘違いしているのだ。それでもオーンは知っている限りの日本語と英語で応対し、ホテルに着いても各メンバーを部屋まで案内していた。メンバーの中には日本の旅館のように仲居に部屋まで案内してもらうのが当たり前だと思っている奴もいるのだ。オーンは顔見知りのボーイから「ナタリーやめてガイドやってるのか?」と聞かれ、「メチャイ、メチャイ」と答えていた。こんな一生懸命に手伝ってくれているオーンと本当に別れられるのか?

 今回は我輩も忙しくゆっくり紘氏と会っているヒマがなかったので会員でのタニヤの焼肉屋の夕食会に来てもらうことにした。皆を大テーブルに座らせ我輩と紘氏、オーン、ヒアンは隣の4人掛けの席についた。「医者の団体だって聞いたから偉そうな顔した奴ばかりだと思ったけど、みんな単なるオッサンだなあ。」おい、紘、そういうことをでかい声で言うな。

 我輩達は一皿100Bのカルビやロースをつつましやかにつついていたのだが、仲間の一人がメニューの中からあるものを発見した。「神戸牛」一皿1,480B。「オッ、タイにも神戸牛あるんか、食おう、食おう。」と一度に5皿単位で注文し始めた。しかも皿から直接肉を焼き網にぶちまけ、そのままパクついているので神戸牛の皿が5枚、10枚、15枚と積み重なってゆく、これにはさすがの紘氏もただ唖然とするばかりであった。

 会計は何と4万Bとなった、みんなの金を預かり会計を担当していたオーンも支払いをしながらあっけにとらわれて、「モーウェンの仲間ってみんな金持ちなのね。」こういう姿態をタイ人に見せるから日本人価格がつりあがっちゃうんだよ、こいつら日本でもうまいものには金に糸目はつけないが,わざわざタイまできて同じ事をやることはないだろ、他の日本人の迷惑だ。それに少しでも安くやってやろうと思って我輩やヒアンやオーンがガイド代わりになって苦労してるのに、全てが水の泡。我輩は違うぞ、ちゃんと「1ナタリー」という貨幣価値を理解しているぞ、神戸牛1皿とナタリー入浴1回とどちらが価値がある!オーンには「みんな悪徳医者だから儲かってるのさ、僕は良い医者だから儲からないけどね。」とだけ付け加えておいた。

 食事のあと、みんなで「愛」に乗り込んだ。とにかくメンバー達はタイ語がしゃべれないのだから日本語のしゃべれる女を押し付けてしまうのがこっちとしても楽だ。ところが昨日のタンポポでは全員あっさりと女が決まったのに今日はなかなか決まらない。しかたなく女の決まらない5人を引き連れて、ちょっとした夜の観光旅行のつもりで、パッポンへ繰り出した。とりあえずKC1あたりがいいだろう。「えっ、こんなところもあるの?私じゃ絶対働けないよ。」オーンは初めて見るパッポンに驚いていた。「今はAPECが近いからみんな水着だけど普段は全員スッポッポンなんだよ。」メンバーのひとりがオキニを見つけたのでオーンに値段交渉をして貰い、めでたくテイクアウトとなったのだがあとの4人がどうしても決まらない。「風呂でも浴びるか。」ということで一旦エメラルドへ帰ることとなった。

 パッポンの娘の通訳としてオーンをホテルに残し、ヒアンとメンバー4人を連れ風呂屋巡りとなった。ミラージュでひとり、ポセイドンでふたりは決まったのだが最後のひとりがどうしても決まらない、こうなれば最後の手段はナタリーだ。我輩にとっても去年の10月の「山岳民族搭乗拒否事件」以来、一年ぶりのなつかしいナタリーである。なじみのコンシアはどうも店をやめたらしい。雛壇を覗くと誰かが手を振っている。ジーンじゃないか、良かった、雲南人だけど何とか復帰出来たんだな。それに、オーンに聞いてはいたが、ナタリーでは雛壇からこちらの様子が丸見えのようだ。我輩は友人に「あの1×9番、僕の知り合いなんだけどフェラテクは神技だぞ、どうだい、あの娘なら僕が話して最高のサービスさせるから。」と言ってジーンを押し付けた。

 役目を終え、帰ろうとすると一人のコンシアが話しかけて来た。「先生、ひさしぶり、1年位になる?」なんと幸一ではないか、そしてさすがナタリーの名物コンシアである、我輩の顔をちゃんと覚えていた。「オーンは元気にしてる?ここやめて先生のミヤノイになったんでしょ。」多分ジーンが全部しゃべったんだな、しかもいいかげんなことを。だからタイ人(あっ、ジーンは雲南人か)は信用できない、「内緒だぞ。」と言ったことは全部しゃべっちゃう。「ああ、元気にしてるよ、今となりのエメラルドで僕の帰りを待っているんだ。」と言ってやった。お前らがよってたかってオーンをクビにしたくせに、よく言うよ。

 ナタリーを出てエメラルドに向かいながら考えた。「明日は日本に帰る、今日こそ別れの言葉を言おう。これ以上こんなメビウスの輪の中をさまよっていてもしょうがない。僕ももうすぐ50だし外道寿命も残り少ない、外道の細道で知ったエデンクラブにも行ってみたいし、ナナプラザも散策したい。今日でお別れだ、シナリオも出来ている。」





最終章

        シナリオ 其の壱

 ヒアンが帰った時にはもう午前1時を過ぎていた。風呂の支度を整えて隣に座ったオーンに我輩はおもむろに切り出した。「オーンも来年の1月で26だね?僕たちも知り合ってから2年以上もたっちゃったね。」「26歳か、もうおばあちゃんね、そろそろ私に飽きてきた?」「いや、そうじゃないけど、そろそろ結婚とか考えないの?」「そうね、私もそんな年になっちゃったのね。結婚か、でも相手いないもん。」「いや、オーンならその気になればすぐに見つかるよ。それにタイ人と結婚すれば身分証明書もタイ人用のに変えられるでしょ。」

 実は現在、田舎では百姓が嫁不足に悩まされている。百姓の娘は絶対に百姓と結婚しない、一にとにかく金持ち、二に(タイより裕福な国の)外国人、三に百姓以外の職業のタイ人、これ以上の妥協はしない。こういった相手が見つからなければ平気で独身を通す。だからチェンライの貧乏百姓達は結婚相手が見つからず、しかたなく山岳民族の村やメーサイ越えしてパーマまで行って嫁を見つけている。ノンブア村にもメオ、イコー、アカそしてパーマの女がたくさんいる、運良くタイ人同士で結婚しても相手の女はイサーン人(今ではイサーンよりヌアの方がずっと裕福)であったりする。我輩の義妹にしても女ばかりの姉妹で姉達はみんな日本人、シンガポール人、タイの公務員と結婚してしまっていて農業のあとを継ぐ男がいなかったため、どうしても村の真面目な男と結婚して欲しかったのだが絶対にそれを承諾せず30歳になってしまったので、しかたなく我輩が日本人の男を見つけて結婚させた次第である。

 オーンなら山岳民族でしかも風俗に手を染めたとはいえ家族とともにチェンライへ降りてきてタイ人の村に住んでいるのだから相手は簡単に見つかるはずだ。「ねえ、オーン、僕は君が大好きだ。でも僕が君と結婚出来ないのはわかるよね。だとしたらいつまでも僕が恋人顔してまとわりついてちゃ迷惑でしょ。」「うーん、そんなことないけど。」「いや、僕が居ちゃいつまでたっても結婚相手はみつからないよ、僕も寂しいけど今日で最後にしよう。」賢明なオーンは全てを悟ったのか小さく頷いた。我輩は用意していた3万Bを取り出し、「オーン、チェンライの家、熱くて寝苦しいって言ってたでしょ。これで部屋にエアコンでも入れなよ。」「ありがとう、でも連絡さえくれなきゃいつでも別れられるのに何故わざわざ、別れるなんて言うの?」「そんな別れ方オーンも嫌でしょ、これが僕のオーンに対する愛情なんだよ。」

 こうして2年以上にも渡って家族とオーンというメビウスの輪の上をさまよっていた我輩は、あの2001年7月へとたどりついたのであった。帰国後もオーンのことを考えると胸が締め付けられる。完全洋楽志向の我輩ではあるが、オーンを想う時なぜかこのメロディが頭の中を流れてゆく。

                           夢でもし逢えたら     素敵なことね。

                           あなたに逢えるまで    眠り続けたい。

 

最終章         シナリオ 其の弐

 ヒアンが帰った時にはもう午前1時を過ぎていた。風呂の支度を整えて隣に座ったオーンに我輩はおもむろに切り出した。「オーンも来年の1月で26だね?僕達も知り合ってから2年以上も経っちゃったね。」「26歳か、もうおばあちゃんね、そろそろ私に飽きてきた?」「いや、そうじゃないけど、そろそろ結婚とか考えないの?」我輩の問いかけにオーンは突然、大声で笑い始めた。「結婚?私が結婚なんかするわけないじゃない。せっかく家も少し裕福になってきたんだし、貧乏を一からやり直すのは嫌だよ。ずっと独身でいる。」ああ、そうなのか、オーンもやっぱり頭の中はタイ人なのだ、我輩の義妹と同じだ。予定が狂っちゃったな。

 「貧乏をやり直す。」これはタイの百姓の娘が誰でも口にする言葉だ。貧乏の中で生まれ育ち一生懸命苦労して働きながら、あるいは売春婦に身を落としながら、何とか這い上がってきたところで百姓と結婚するということはもう一度貧乏に戻って、もだえ苦しむということなのだ。この娘もそれがわかっていて、結婚なんかとんでもないと思っているのだ。山岳民族の血をひきずり、貧乏を背負いながら、チェンライの田舎でけなげに一人で生きていこうとしているのだ。だとしたらこの娘は我輩を、、、、、、、必要としている。

 我輩はとまどいながらも次の言葉を見つけていた、しかし見つからない、そうしているうちにオーンは満面に笑みをたたえながら我輩に抱きついてきた。そうだ、やはりこの娘は我輩を必要としている。人間、誰でも自分が必要とされている場所こそが最も心地よい自分の居場所なのだ。我輩が独身に戻りオーンと結婚したら、、、オーンの差別問題も貧乏も一挙に解決する。しかし我輩には家庭や子供を捨て去ることは出来ない。それならば、それならば、口に出してはいけない禁断の言葉が込み上げて来た。しかしそれを止めることはもはや出来なかった。この言葉、今までも風俗嬢相手に何度も使ったことはある、しかしそれはその場限りのことで帰国してしまえばあとは知らんぷり。しかしこの言葉をオーンに使う意味は痛い程わかっていた、しかし我輩の胸に顔をうずめているオーンの姿を見たら、もう止まらない。

 「オーン、どうせ結婚しないんだったら、僕の愛人になってくれるかい?ちゃんと月々1万バーツ送るから。」あの神戸牛事件がなければ5千と言うところであったが、あれを見られてしまったのでこうなってしまった。我輩は用意してあった3万バーツを取り出し、「これ、とりあえず3ヶ月分、こんど来る時までにシティバンクのワールドキャッシュカード作ってくるから、これがあればチェンライにいてもいつでもお金は引き出せるよ。」オーンは黙って2回頷き、「お風呂がいっぱいになったから、そろそろ入りましょ。」我輩にとって、この幸せから抜け出すことはやはり出来なかった。

 オーンと別れるどころかミヤノイの約束をしてしまった。メビウスの輪が引きちぎれてしまった。この小説を書き始めた意図がすっ飛んでしまった。普通の外道に戻れなくなってしまった。エデンにもナナプラザにも行けなくなってしまった。これからは日本での遊びを少し控えてオーンに貢がねば。しかし、しかし、外道平民の皆さん並びに紘さん、どうか我輩を見捨てないでぐでーーーーーー。

                                                  恥ずかしながら(完)

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