カンボジア外道

 カンボジアのある町に外道修行のために行ってきた。
 ホテルに着いてシャワーをあびるとすぐに置屋へと向かう。この町には置屋以外娯楽に属するものが全くなく、映画館すらないので来るたびに日がな一日置屋で過ごすのを常としている。置屋ではビールを出してくれるし、洋物裏ビデオを流しているので退屈しない。今回も行きつけの置屋へと向かった。店のママさんはオレの顔を見ると嬉しそうに奥のテーブルヘと案内し、「ちょうど良かった、新しい子が三日前に入ったんだ試してみるか?」と聞いた。新人が好きな人もいるようだが、オレは新人はマグロが多いので嫌いなのだ。そのことをママさんに告げ、いつのもお馴染みのグンちゃんはいるか?と訊くと、ママさんはすまなそうに「グンはベトナムに帰ったのよ、他の子はどう?」と言う。他の子って言ったってブスか超ロリばかりなので、「今回はいいよ、また来るから・・・」とこの店を出た。

 もう一軒の置屋はまだ開店していず、オレは市場のそばにあるビヤガーデンで酒を飲んで時間を潰すことにした。このビヤガーデンのある十字路は置屋街の中心にあって、オレは勝手に"置屋交差点"と呼んでいる。日が暮れるのを見ながらビールを飲んでいると、次々に置屋は赤いランプを灯し開店していく。店の前に立つ娼婦達が道行く男達の手を引き声を掛けている。男達も楽しそうに店を冷やかし、気に入った子を見つけると、店に吸い込まれていく。カンボジアの夕暮れ時は淫雑な雰囲気に包まれた。オレももう一軒の馴染みの置屋へと向かう、店のランプは灯っているもののシャッターは閉まっていて、まだ営業してないのかな?と思ったが、シャッターの隙間から中をのぞき込むと、女の子達が座ってテレビを観ていた。顔見知りの女の子がオレの顔を見るとシャッターを開けてくれる。何か協定でもあるのだろうか?この町の置屋は昼間シャッターを閉めているが、中では営業をしているようだ。

 店にはいると20人ほどの女の子がやる気なさそうにテレビを観ている。すぐにやり手ババアがやってきて、しきりと女を選べと言ってくる。オールナイトでいくらだ?と訊くと400バーツ又は10$と言う。プノンペンでもオールナイト20$は取るのだから、400バーツって事はないだろう、ショートと勘違いしてボルつもりなのか?と思い何度も訊くが答えは400バーツのままだ。どうも夕方六時を過ぎるとオールナイト400バーツになるらしい…約1000円でオールナイトか…安すぎる!と思いつつオレは大変嬉しかった。やり手ババアに店にいる女の子のうち、タイ語が話せるのは誰か?と訊くと、一人の女の子を指さした。サル系の顔であまり好みではなかったが、ニコニコしていて愛想が良くオッパイも大きそうなのでその子を連れて帰ることにしてオレはやり手ババアに10$を払った。

 ホテルについて女の子と話をするとその子の名前はガンちゃん、ハノイ出身。ここに来て5ヶ月が経つそうだ。ガンちゃんと二人でふざけ合いながらシャワーを浴び、ベットへ移る。すぐにガンちゃんはオレの乳首を舐め、イチモツをしごき出す、そのままきつめの尺八があり彼女が上になって腰を打ち付け始めた。大きい・・・思った通り大きなオッパイだ!腰の上下に合わせてオッパイがブルブル揺れる様は壮観だった。掴んでみても大きさの割には張りのあるオッパイで、オレは自分の選択に満足した。オレは横ハメ、バックと試みて最後は正常位になり果てた。満足できる第一発目だった。

 写真を撮ったりしてふざけ合っているうちにガンちゃんは「貴方ご飯食べた?まだなら私の家で食べない?」訊いてきた。家って言ったて女郎置屋じゃないか?と思ったが部屋にいてもセックス以外何もやることがないので、ガンちゃんと一緒に置屋に戻ることにする。

 置屋で飯を食っているとガンちゃんは、オレのデジカメを持って”友達に見せてくる”と言い奥に消えた・・・友達に見せるって言っても自分の大股開きの画像を見せて嬉しいのだろうか・・・

 オレは一人で置屋の客室で飯を食っていると突然何者かに背中を殴られた。振り返るとそこには怖い顔をしたメグちゃんが立っていた。彼女とは前々からのお馴染みだったのだが、どうゆう訳か突然嫌われてしまいオレの顔を見ると無視するので彼女を指名する事が無くなって久しい。メグちゃんは口を開くといきなり「オイ、浮気者のデカマラ!手当たり次第いろんな女のマンコに突っ込みやがって、早くエイズになって死んでしまえ!」と強烈な事を言った。しばらく言葉を交わさないうちに、彼女のタイ語能力は飛躍的に向上していたが、新たに習得したボキャブラリーは主にスラングのようで、彼女の口から発せられるオレへの批判は「このマンコ舐め野郎!お前ノイともやっただろ、私知ってるんだぞ」とか「ガイの口の中に出したんだってな、まだ18の子になんて事するんだよ!」とか「お前は盛りのついた猫か?あたしの毛饅頭に突っ込みな!」など次々に強烈な罵声を浴びせる。オレは彼女のタイ語に感心しながら「ウンウン、君の言う通りだ。オレはロクデナシのマンコ舐め野郎だろ?みんなそう言うぞ、オレのお袋もそう言ってる!」と彼女の批判をはぐらかした。それに刺激されたのか、黙々と飯を食うオレの横でメグちゃんはヒステリックに罵声を浴びせ続けていたのだが、デジカメを手にしたガンちゃんが戻ってくると、流石に同僚の手前もあるのか、ぶつぶつ小声で文句を言うだけになった。ガンちゃんは当然、オレとメグちゃんとの間の事情を知っているのでニヤニヤしながらオレ達の顔を覗き込んでいる。そのうちにガンちゃんが新たな提案をした。「ねー、メグはまだお客がついてないし可哀想だから彼女も連れだして三人で楽しみましょうよ!メグもそれなら文句がないでしょ?」とメグちゃんとオレにに問いかける。オレはそんなことでメグちゃんの怒りが収まるとは思えなかったが、意外にもメグちゃんは乗り気で「それなら今までの事を許してあげてもいいわ」などと言っている。オレも、もう一人連れだしたところで、あと10$かかるだけだし、考えようによっては約2000円で3Pが出来るのだから異存はなかった。早速10$を払いメグちゃんも連れて帰ろうとすると、ガンちゃんが「お菓子を買ってくるから200バーツちょうだい?」と言った。オレは言われるがままにガンちゃんに金を渡しメグちゃんと一緒に先にホテルに帰った。

 部屋にはいるとメグちゃんはさっきまでの態度を一変し、「貴方が指名してくれなくてメグは悲しかった、他の女の子を連れて行くたびに、メグは一人トイレに籠もって泣いていたのよ!」
 「じゃあ、なんでオレのことを無視したの?」と訊くと、メグちゃんはまた怖い顔になって「私がお店にいないときに、他の女の子とやったでしょ!私がいないなら何もしないでホテルに帰って欲しかった・・・」と言う。
 オレは女郎置屋に来てるんだし、お馴染みの女が居ないからといって、何もしないで帰るわけはないのだが・・・と思ったがオレは黙ってメグちゃんの話を聞いていた。おそらくメグちゃんはこの話を何人もの客に聞かせているのだろうが、男の悲しいサガでそう言われると妙に嬉しい、オレはメグちゃんとベットでイチャイチャしながら身体をまさぐり合っていた。そこに、買い物に行っていたガンちゃんが帰ってきた。彼女は衣服の乱れたオレ達を見ると呆れたように「もうメグと一発やったの?」と言った。あっけらかんとしたものだ、オレは「まだやってないよ!それより、お菓子を買った来たの?」と訊くと。ガンちゃんは舌を出して「これは夜のお菓子よ!」と言い、5錠のヤーバーをベットの上に置いた。オレは頭がクラクラしてきた、やはりこの子達にむやみに金を渡すのは良くない、必ずこういうものを買って来てしまう・・・。オレはこれから行われることを考えると頭が痛くなって俯いていたが、彼女たちは楽しそうに銀紙やライターを用意している。オレにも吸えとしきりに勧めるが、これをやると寝られなくなってしまうので、オレは辞退したかった。しかし、その後もヤーバーを炙って酩酊してきた彼女たちはしつこく吸え吸えと言ってくるし、すでに、部屋の中はヤーバーの甘い匂いで充満していて、まだ何もやってないオレまで部屋の空気のせいかクラクラしてきた。こうなったら、やってもやらなくても同じだと思いオレも途中からこのヤーバー吸引活動に参加した。買ってきた5錠のヤーバーはアッという間に無くなり、オレ達3人はヘロヘロになっていた。皆酩酊しているので、誰から言い出すともなくヌード写真撮影大会が始まり、ガンちゃんとメグちゃんは勢い良くシャツを脱ぎブラとパンティーだけになってポーズをとっている。オレもパンツ一丁になり調子に乗ってバシバシ写真を撮っていた。彼女たちは今撮ったばかりの画像をデジカメのモニターで見ると笑い転げ、次はこのポーズだ、その次はこれだと、次々にあわれもない姿を披露してくれた。

 そのうちに、ガンちゃんが「今日は楽しい!ディスコに行こう?」と言った。グダグダに酔っぱらっているメグちゃんやオレに異存はなく「行こう行こう、今すぐ行こう!」と言うことになり、手早く服を着るとその町にただ一軒だけあるディスコへと出かけた。

 そのディスコは、町はずれのホテルの一階にあり、この辺境の町でただ一つの娯楽施設と言える場所だった。ドアを開けて中にはいると店内の照明は極端に落とされていて、足元が見えないくらいだ。すでに、何組かの客がバンドに会わせてフロアで踊っている・・・カンボジアのディスコ、それはオレの持っていたディスコ・クラブの概念を根底から打ち破ってくれた。まず、このディスコにはDJがいない!生バンドのみなので、曲の合間に演奏がとぎれ、その間客は文句も言わずじっとフロアに立っている。演奏される曲はタイのポップスが多く、カンボジアの民謡みたいなスローテンポの曲が間に入る、中にはタイタニックのテーマ中国語バージョンなんて言う凄いのも演っている、客は100%娼婦か女を捜しに来た男達で、お互いを値踏みするようにじろじろ見ている。オレはあまりの異様な雰囲気に圧倒されていた。しかし、メグちゃんとガンちゃんは楽しそうに「ねーねー!踊りましょうよ、もうすぐテン・ピーが始まるわよ」と言った。テン・ピー!・・・タイ語のようだが、直訳すると「お化け踊り」だ!な、なんなのだそのテン・ピーって言うのは?・・・オレは彼女たちに尋ねたが、彼女たちのタイ語能力では説明できないらしく、ただ見れば分かるとしか言わない。やがて、テン・ピーが始まった。どうもこれはカンボジア民謡の盆踊りのようだ、かなりのスローテンポで3歩進んで2歩下がるみたいな踊りを輪になってやっている。一定の振りがあるらしく、皆一糸乱れずグルグルとフロアを踊り回っている。オレは頭の中で三流映画の傑作”死霊の盆踊り”を思い出していた。メグちゃんとガンちゃんはオレの手を引き「行こう行こう!」と誘うが、オレはとてもこの踊りには対抗できないと悟って「オレはいいよ、君たちだけ踊って来な」と言い、彼女達を送り出した。

 彼女たちも加わったお化け踊りは延々と続き、単調なゆっくりした踊りにもかかわらず皆楽しそうに踊っている。これがカンボジアの踊りなのかどうかはわからないが、タイのモーラムに似ていて、しかしタイのそれよりずっとゆっくりしたリズムで、タイの踊りが馬鹿騒ぎ中心なのにくらべ、遙かに優美な感じだ。よく見ると曲によって微妙にフリが違う、皆曲によって踊り分けているようだ。オレはビールを飲みながら、この異様な踊りを眺めていた。やがて、テンピーは終わり、メグちゃんが席に戻ってくるとオレの手を引きフロアに連れだした。ヤーバーの効いたオレ達はタイのヒットソングに合わせて踊りまくり、閉店時間まで遊んでいた。

 遊び疲れてホテルの戻ったのは1時過ぎだった。まだ体内からヤーバーは消えておらず、オレ達三人はラリパッパだったので、キャーキャー言いながら三人でシャワーを浴び、もつれ合うようにしてベッドへ、ガンちゃんが洋ピンエロビデオみたいなファックをしようと提案し、オレは彼女たちを跪かせると、前に立ちはだかり「しゃぶれ」と命令した。彼女たちは最初少し恥ずかしそうにしていたが、そのうちに興奮してきたのか、競い合うようにしてオレの一物をシャブリ、わざと大げさにピチャピチャ音を立てて吸う。オレは二人を見下ろしていたが、二つの小さな口が争うようにオレの一物をしゃぶるのを見るともの凄く興奮してギンギンになった。いつまでもシャブリ続ける二人にオレは「入れるぞ、メグちゃんベッドに四つん這いになれ」と言い。ケツだけを大きくつきだしているメグちゃんに挿入した。メグちゃんは細い身体をしならせて「オイッオイー!」と喘いでいる。ガンちゃんはベットに座ってメグちゃんのオッパイを乱暴に揉む。何度も女を交換し、体位を変え、またしゃぶらし、と外道の限りを尽くしたが、ヤーバーの効いているオレ達はなかなか終わらない・・・何時間もかけてやっと二回終えたときには、朝方になっていた。浅く眠り昼前に起きたオレは二人に100バーツずつのチップを与え置屋へと返した。

 荷物をまとめバンコクに向かいこの町を出て、その日の内にバンコクに帰ってこれた。今回の旅行にかかった費用は全部で3112バーツ、約8600円・・・一泊二日、ヤーバー3P付きで8000円か、安い外国旅行だったなーと思いながら部屋につくと、昨夜の無謀な長時間ファックがたたったのか、全身の筋肉が痛い!オレは住み慣れたバンコクの部屋のベットに身体をそっと横たえ、泥のように寝込んでしまった。




カンボジア・マトリックス (カンボジア外道 その二)

 雨期の始まりを告げる、ソンカーン(タイ正月)も終わった5月のある日、オレは再び外道修行のためカンボジアへと向かった。夕方4時に出国、無事カンボジア入国をはたす。

 タイ側の国境市場は、この地域が安定しだして以来、俄に活況を呈し駐車場は拡張され、其処には乗用車や観光バスが並びコンビニやスーパーマーケットまで新設された。観光客が増えた理由の一つにカジノがある。タイ国内では御法度の賭事が国境を僅か20メートル程越えたカンボジア側では大っぴらにやれるとあって、元々賭事好きのタイ人が殺到しているようだ。また、この国境はタイ-カンボジア両国民に限ってビザ無し、パスポート無しで短期間の越境が出来、お気楽に行き来出来る。そのせいか、行きは高級車で来たのに、バカラで熱くなり過ぎ、帰りはバスで帰ると言う悲劇も多いそうだ。

 まあ、外道者オレには関係のないことだが、相変わらず落差の酷い国境だ・・・カジノのある所までは、何とか道と呼んでも差し支えない状態だが、その先はこの世の地獄かと思うような暗黒世界がひろがっている。一旦越境すると、数分前までいたタイが仮想現実ではないかと思えるような貧困ぶりだ・・・映画「マトリックス」のような仮想世界と不毛現実の落差を目の当たりにしてオレは呆然となった。

 ボーッとしていても仕方がないので、オレはバイタクを呼び、ホテルへと向かった。国境からオレの定宿のホテルまでは、わずか500メートルほどだが、完全に歩行不能だ!地元のカンボジア人ですら、バイタクやバイクにリヤカーを連結した不思議なバスで移動している。どういう訳か道を塞いで電柱が横倒しになっており、ホテルに行くまで、2度もバイタクを乗り換えなければならない、その度にオレはバイクを降りて、足首まで泥沼に浸かりながら歩かなければならなかった。今回に限りサンダルを履いてきて良かった。靴を履いていては泥沼に足を取られてとても歩けない・・・貧困以外の理由で、靴を履けない土地もこの世には存在したのだ。

 やっとの思いでホテルに着くと、まずは入り口近くに置いてある水瓶にて”足洗の儀式”がある。これを済ませてからでないとチェックイン出来ない。オレの案内された部屋は”KARAOKE 03”・・・なんだこのROOM NOは?さらに嫌な予感がすることに、隣の部屋には、スペシャル・カラオケルーム(スパーク)とド派手な装飾文字のプレートが張ってある。知らない内に増築して、以前のように、この町唯一のエアコン付きホテルが常に満室と言うことは無くなったが、内装のダサさは相変わらずで、大きめのベットが二つある他は家具らしき物は全くなく、その点はカオサンのパッカー宿と同様だ。そのくせ、競争相手が無いのを良いことに、一泊500Bもとる殿様商売は健在だった。

 オレはすぐにシャワーを浴び、お馴染みのメグちゃんのいる置屋へと向かった。置屋交差点は他のどの場所よりも酷い有様で、バイタクを降りてから、置屋の入り口までの数メートル歩いただけで、またもオレは泥足人間になってしまった。此処でもまずは足洗の儀だ。

 こうまで苦労して行ったにも関わらず、メグちゃんはベトナムに帰ったそうで居らず、仕方無しに他のベトナム人を指名した。その子はオレ好みのロリ顔だったが、必要以上にベトナム人だった。つまり彼女は、中国的な厳しさをファックの最中にまで持ち込むのだった。しきりにオレのお稲荷などを舌先で弄びながら「フェラは100バーツプラスね!」などとカワイイ顔で要求する。こう言うところがオレがカンボジアと言うか、カンボジアにいるベトナム人をイマイチ好きになれない理由なのかと思う。

 インドシナ半島の二大強国、タイとベトナムの国民性は、それぞれ強烈な個性と魅力を持ちながら、相反する部分が多いと思う。ベトナムが強権で徐々にその支配地域を拡げていったのに比べ、タイは異民族異文化を寛容に受け入れ、また一見無節操と思えるほど、自己をも変容させて、結局は他者を同化吸収してきた。世界各地で暴動が起きるたびに、虐殺の対象となる中国人・インド人ですら、タイの同化現象に飲み込まれ、そのアイデンティティーは年々薄まる一方だ。近年では、それにユダヤ人が加わろうとしている。一方ベトナムは、その力を拡げるため常に戦争が絶えず、多く血を流してきた。いずれ両国は国境を接する時が来るだろうが、その時はどんなことが起きるのだろうか?

 どちらがどうだなどと言うのはよそう、オレは一介の外道者なのだ・・・。だが、ファックの最中に文化の違いを見せつけられ、オレは少し萎えてしまった。それを早くも感ずいた彼女は、オレの内股に舌を這わせ、それでも「プラス100バーツ!」を連呼する。このしつこさ、物事に対する強い執着!流石は米軍をも撤退させただけのことはある。オレはアッサリ降伏してしまい、プラス100バーツの条件をのんで、シャブって貰うことにした。こうなるとベトナム人の仕事に対する姿勢は厳格だった。彼女はやや強過ぎるぐらいにゴシゴシとシャブリ、オレはアッサリと口に出してしまった。こうして、オレの対ベトナム戦は敗戦を迎えたのだった。

 うなだれて部屋に帰ると、其処はまさに戦場だった。前にも言った通り、オレの部屋の隣は、スペシャル・カラオケ・ルーム(スパーク)なのだが、対ベトナム戦に敗れて傷心のままホテルに帰ると、お隣の部屋はスパークどころか、エクスプリュージョン(爆発)していた。大音量の中国語カラオケに混じって、女達の嬌声が聞こえる・・・これではとても寝られない。

 仕方がないので、ホテル付属のナイトクラブに行くことにした。前の”カンボジア外道”にも書いたが、このナイトクラブは、想像を絶する暗黒世界で、足元も見えないくらい照明が落とされている。入り口付近には、此処でも嫌われ者扱いのベトナム人娼婦が客引きをしていて、遊びに来た外道白人相手に強引な営業活動を行っていた。どうも彼女達は、お客と一緒ではないと入店できないらしい。オレはなるべく彼女達と目を合わせないようにして店に入った。ダンスフロア脇のテーブルに座ると、早速ママさんがやってきて、女の同席を勧める。彼女は半端なタイ語と英語を話すので、オレは「気に入った女がいたらママさんを呼ぶから、それまでは一人で飲ませてくれ」とお願いした。ママさんは如何にもわかったという表情でオレの前を立ち去ったが、やはりあまり意味は通じていなかったようで、次に現れたときには一人の女を連れてきて勝手にオレの横に座らせた。あれほど今はいらないって言ったのに・・・。仕方無しに、オレは英語・タイ語・日本語・中国語と持てる語学能力を全開にして彼女とのコミュニケーションを図ったが、「君の名は何?」と言った簡単な質問すら通じず、彼女は只戸惑って微笑むばかりだ。会話が全く不能だったので、オレはボーッとしながらダンスフロアで繰り広げられる盆踊りを眺めていた。

 やがて閉店の12時になった。ママさんはしきりに、女を部屋に連れて行けと勧めるが、全く会話不能な女と一夜を共にするのは返って苦痛だろうと思い、会計をして貰い一人で部屋に帰った。お隣のスパークルームは宴会が終わったようで静まり返っている。一日の疲れが出たのか、オレはすぐに寝入ってしまった。その夜見た悪夢は、珍しく起きた後も鮮明に記憶に残っていた。

 それは、部屋に連れ込んだ女に眠剤(シビレ薬?)を盛られ、意識は朧気にあるのだが、体は動かず、荷物をひっくり返されて有り金全てを取られてしまうと言う、外道者としては最悪の夢だった。この恐ろしい悪夢で汗だくになり起きると、すでに朝になっていた。

 ホテルのコーヒーショップで、カンボジア名物フランスパンとコンデンスミルクアイスコーヒーの朝食を取り、足早にカンボジアを去った。その日の夕方にはバンコクに着いて、部屋に帰ると留守電のランプが点灯している。オレはメッセージを聞くためにスイッチを押した。

 「ピー・・・十六件です」と言う乾燥した電子音の後、何件かの無言電話の録音があり、オレは上の空で荷物を整理しながら聞いていたのだが、突然ヒステリックな女の声で

 「大馬鹿野郎!何度電話しても部屋にいないじゃないか、帰ってきたらお前のチンチンを切ってアヒルに食わせてやる、わかったか!このマンコ気違い!!」

 ノックからのメッセージだった。物騒な内容のメッセージだったが、何故かオレはホッとしてしまい、すぐに寝てしまった。その夜は夢も見なかった。